ちっぽけな僕らは(3)
彼の顔に笑みはなかった。
大貴はそれには何も答えずに、仰向けになって天井を見つめた。
端から見ればそうなのかもしれない。
依存という言葉はよくわからないが、自分が菜月に寄り掛かり過ぎているような気はかねがねしていた。
「……ちょっと距離の取り方がわからないって感じ、かな……」
ぽつりと呟くと、大和はまた「ふーん」と素っ気なく返した。
「じゃあさっさと付き合えよ」
「……だからなんでそうなんだよ」
「だって付き合えば距離とか考えなくてもいいだろ。肩書きがまだ“幼馴染み”だから変に悩むんじゃねぇの」
大貴は掛布団を鼻まで上げてため息を吐いた。
大和はいちいち痛いところを突く。
田神たちによれば「幼馴染みは羨ましい」ものらしいけれど、当の本人からしてみれば邪魔なものでしかなかった。
それに好きだと簡単に伝えられるのなら、そんなの、とっくにしている。タイミングが掴めないから困っているんじゃないか。
大貴はまた長いため息を吐いて「幼馴染みってめんどくさい」と呟いたところを大和に修正される。
「幼馴染みを“好きになって”めんどくさい、だろ。好きになったもんはしょうがねえな」
更には含み笑いをされ、大貴はむっとした。でも否定はできなかった。悔しいので話題を変えてやる。
「大和はどうなんだよ。たまに女の子とメールしてるじゃん。あれ誰? 彼女?」
「……いや、元カノ」
そう答えた彼の声が一変して冷たくなり、妙に思った。
大貴は僅かに頭を起こし、大和に目を向ける。
「元カノって……こっち来る前の?」
「……そう」
無感情に大和が頷く。ベッド横の照明は点いているが部屋は薄暗く、大和の表情もいまいちよく見えなかった。
「なんでまだ連絡とって……」
「……まあ色々あったんだ……としか言えない。今は」
視線を合わせようとしない彼を見つめたまま、大貴は閉口した。
大和が転校してきた理由は、数年経った今でもまだ知らない。
前の中学で何かやらかしたのだろうとは思っていたが、もしかしたら予想以上に深刻なことなのかもしれない。
――触れない方が賢明かな、今は。
大貴は枕に頭を埋めやれやれと息を吐いた。
「でも大和って、奥村さんが好きなんだろ」
「…………」
「ははは、図星」
「うっせーな」
「お前こそさっさと告れよ」
「……無理」
そう呟いて大和は寝返りを打ち、背を向けてしまった。
大貴は苦笑しながら「おやすみ」と言って照明のスイッチを切った。そして真っ暗闇の中で掛布団にくるまる。
それから静寂が広がったが、しばらくしてまた大和が口を開いた。
「最後に言っとくけどな」
「もーなんだよ」
話が途切れないため、思わず大貴は吹き出した。
「菜月はお前しか見えてない」
「……え?」
「だからちゃんと考えてやれよ。じゃ、おやすみ」
そう言ったきり、大和は完全に眠りに就いてしまった。何度か呼んでみたが返事はもちろんない。
「こいつ……言い逃げかよ」
大貴はいくらか憤然としたものの、目を閉じて考えを振り払おうとした。
菜月がどう思っているかなんて、自分には分からないし、考えるだけ無駄だと思う。それよりも自分がどうしたのかをはっきりさせなければ。
でも、彼女はいつまでも自分の側にいるような気がする。
生まれた時から、これまでずっと、離れたことはなかった。
高校受験の際も菜月は迷わず自分と同じ高校を選んだ――中学の担任に成績からして無理だと断言されたことは後から聞いた。
合格できたからいいものを、何でわざわざこの高校にしたのかと尋ねてみたら、彼女は「大貴も行くし、大丈夫かなーと思って」などと言って笑っていた。
必死になって勉強していた菜月の姿を思い返し、彼女がだいぶ無理をしていたことにもその時気付いたのだ。
――あいつ……依存っていうか、俺に束縛されてるんじゃ……。
まどろむ中でふとそう思い、少し気を付けなきゃと考えたのを最後に、大貴は深い眠りに落ちていった。
おわり
(大人になりきれず、素直にもなれないくらい、ちっぽけで)
大貴と大和が話してるところを書きたかっただけです。
なんか作者の想像を超える仲の良さですこいつら笑。
書きながら男の子って不思議だなぁと思ったりもしました。
菜月と話す時とちょっと雰囲気が違うかな大貴。
あと、本編では大貴の菜月に対する気持ちはあまり書かないようにしていたので、書くのが新鮮でとても面白かったです。