その6
「……ねえ、リオン? なんで最初から落としどころを考えているのかしら?」
胡散臭そうな視線を弟に向け、イシュタルは尋ねる。「明らかに問題起きると見ているのよねえ?」
「さて? そこまでは分かりかねますなあ。俺は何が起きても良い様に考えているだけで。何せ相手は現在天界で最も勢力を誇る家柄を中心とした連中。魔界で皇帝を何代も排出している当家が動いたとならば、連中も心穏やかではいられますまい? 道義的に正しい行動を取るとは云え、邪魔をされる可能性が高いのならば、対策は用意するべきでしょう?」
至って真面目な表情を浮かべ、リオンは言い放った。
「それは道理よね。イシュタルちゃん、私としてはこの件に関して賛成よ? うちみたいな実質上の新設校が大きくなるには、こういう逸材を逃すという手はあり得ないわ。多少喧嘩を売る様な真似になるとしても、このチャンスを逃す手は無いわ」
おっとりとした外見からは想像もつかない強い視線をリサはイシュタルに向けた。
「……はいはい、私の負け負け。私だって本来なら、これだけの逸材だったら諸手を挙げて賛成よ? ただし、聖リュニヴェール学院でなければ、だけど。それで、ここまで推すからには勝算はある、と見て良いのよね?」
投げやりな感じに手を左右に振り、イシュタルは弟を見た。
「当然ですとも、我が敬愛なる姉上様。リオン・ヴァシュタールの名に懸けて、エリート面した連中に一泡吹かせて見せますとも」
間髪を容れず、リオンは自信満々に返事をした。
「最初からそれが狙いでしょう、リオン。……まあ、良いわ。どうせ、和泉が居たら間違いなく私が押し切られていたでしょうからね。それじゃ、リサ。上手い事この子を誘ってきて貰えるかしら?」
「了解。リオンちゃん、どうやってアプローチを掛けるつもりだったの?」
イシュタルの言を聞き、リサはリオンに対して腹案を尋ねた。