その16
「歴史にも語られている通り、剣聖竜皇紅葉の失踪後、世界は危機に陥った」
リオンは先導しながら、歴史を語る。「守護者を失った世界は大混乱に陥り、三界共に滅亡の危機に陥った。竜皇が居なくなって何が拙かったかって云えば、三界入り乱れての大戦乱は大昔の天魔大戦の一度きり。それも、どうにもならない最悪の事態まで踏み込んだ時に、紅葉竜皇が介入した事で痛み分けで終わったと云う笑うに笑えないオチで終結した。それもあって、啀み合いながらも三界の均衡は取れていたワケだ。当然、その重石がなくなれば薄氷上の繁栄は一気に水の中に落ちた。竜皇が居なくなったという意味を理解せずに、天界と魔界それぞれの大莫迦者共が天魔大戦の再来と云うべき本格的な戦争に入るのに時間は掛からなかった。ちなみに、天界と魔界、どちらもお互いの所為にしているが、【大盟約】以降判明した三界の記録を照らし合わせた結果、天界と魔界、両方の跳ねっ返りが恰も示し合わせたかのように同時に仕掛けたというのが今の定説だね。ま、どちらにしろ、結果は変わらなかったわけだが」
「第三の敵が現れた」
真面目な顔付きでレクサールは相鎚を入れた。
「その云い方は多少変だがねえ。元々、世界の敵は“虚無”だけなんだからさ」
リオンは苦笑しながら、説明を続ける。「そう、当時三界の誰しもが竜皇の不在の真の意味を理解していなかった。──うちの爺様を除いて、な。天界は驚くべき速さで対魔界の意思統一を為し、行動に移っていた。一方の魔界は跳ねっ返り以外、参戦しようともしていなかった。何せ、皇帝が動かずにいきなり休戦の手立てを探り始めたんだ。主戦派は当然の事ながら、穏健派の一部ですらその対応を生温いと批難した。だが、すぐに皇帝の方が正しいと証明された。世界が“虚無”に侵され始めたからだ」
「なんで、皇帝だけがそれに気が付いていたんだ? 天界だとて、それを知っていたはずだろう?」
レクサールは首を捻った。




