その4
「何よ? 嫌に自信満々ね?」
不機嫌を隠そうともせずに、イシュタルはリオンを見る。
「そこら辺がリオンちゃんが拘っているところでしょうけど、イシュタルちゃんの云う事も一理以上あるのよ?」
険悪な場になる前に、リサは二人を取りなそうと一般論を展開しようとした。
その気遣いを知ってか知らずか、
「まあまあ。それではこちらの調査書を御覧いただきましょう」
と、飄々とした態度の儘、リオンは懐から折り込まれた書類を取り出し、二人の前に置く。
「最初から全部の資料は提出するようにと云ったわよね、私?」
ドスを利かせた声で、イシュタルは弟を睨み付ける。
「提出していましたとも。これは俺の予想が正しいかどうかを調べる為の追加の調査の報告書でしてね。姉さん方に呼ばれる直前に届いたんですよ。悪気や何らかの意図があって提出していなかったわけじゃありません」
悪びれるところ一つ無く、リオンはいけしゃあしゃあと言い放った。
「……まあ、良いわ。それでこそ魔王というものですしね」
溜息を一つ付いた後、イシュタルは弟の悪戯を黙認する事にし、追加で提出された書類へと目を落とす。「……これは……」
「ね、面白いでしょう? 流石に当たりを引けるとは思っていませんでしたけど、大当たりでしたよ。なんで、連中はこんな奇貨を放出したんですかね?」
姉の表情から我が意が伝わったと感じたリオンは笑いかけた。
「これを知っていて何か仕掛けたの?」
不審そうな眼差しでイシュタルはリオンに問いかける。
「まさか。流石の俺でもそこまでは知りませんよ。ただ、あの名門校から不祥事による退学者が出たという事件は興味深かったので、それを調べさせたら浮かび上がってきた事もあった、それだけですよ」
にこにこと笑いながら、リオンは言った。