その16
だが、誰一人としてレクサールに視線を合わせようとせず明後日の方を見ていた。
「あっ」
何となく察してしまったレクサールもまた、侃々諤々の口喧嘩から目を逸らそうとした。
「騒がしいと思ったら、また君達か。私の仕事を増やさないで欲しいのだがね?」
ゆったりと重々しい下駄の音を響かせながら、着流しの上から白い長ランを肩に掛けた男が颯爽と近づいてきた。
「あっちゃん、聞いて下さいよ! この女性がちっとも魔王の話を聞いてくれないんですよ!」
「それは貴方の方でしょうが、リオン・ヴァシュタール!」
「……大体分かった。あと、リオン。地が出ているぞ?」
二人の剣幕を見て、何となくあっちゃんと呼ばれた男は今起きていたことを悟ったのか、静かに言った。
「……まあ、なんだ。あっちゃんも云ってくれよ。彼が転入生であるって」
何事もなかったかの様に笑顔を浮かべ、リオンは男に促した。
「全く、強引な話だな。実にお前らしいが」
男は苦笑しながら、「サン・シールさん、この莫迦が云っている事は概ね正しい。彼、レクサール・デズモリアは明日から正式に我らの学友となる。この様に忙しい時期に申し訳ないが、私の顔に免じてこの二人を通しては貰えないだろうか?」と、言った。
「……レクサール? レクサール?」
不思議そうな表情を浮かべ、何かを思い出すかの様に二回呟きながら、じっとサン・シールはレクサールを眺めた。
「俺が、何か?」
人類種では無いとは言え、怖ろしく整った造形の美女に真正面から見詰められ、レクサールはどぎまぎする。




