その21
「当然兵法だから、守りだけじゃなくて攻めの型もあるけど、明神君の性格や彼の一門の気質から攻めより守りを重視するからね。【鬼哭】を完全に攻めに転じられる分、結果的には手数としても圧迫感にしても比べものにならないぐらい怖いよ。正直、あの守りを抜く為に防御を疎かにしてでも攻めに転じられる気質を持った人ってうちの学校どころか、世間を見渡してもそんなにいないだろうし。実際、ボクもあれに屈したんだからね。だから、平然とそれをやってのけるリオン君はその数少ない異常者の一柱。目の前に襲い来る【鬼哭】を得物で撃ち払わずに防御障壁で受け流すなんて神業を続けるなんて狂気の沙汰。並の精神の持ち主だったら、一合と持たずに心が折れる。反射的にあれを防ごうと得物を動かして、今度は攻勢に転じた“六華比良”で追い込まれる。それを撥ね除けるという意味でもリオン君は異常だけど、その膠着状態をどうにかする為に中距離戦を選んだという事が更なる異常性を示しているんだよ」
強者に対する敬意や畏怖を孕んだ瞳でリオンを見ながら、「リオン君の中距離におけるスタイルはね、防御を一切捨てた“速さ”と“攻撃”に特化した前のめりなスタンスなんだよ」とだけ、アールマティは言った。
それを詳しく掘り下げようとクーロンが口を開き掛けた時、再びリオンが消えた。
【鬼哭】と闇が触れ合ったと思った次の瞬間には、リオンが暁生の間合いの外で鎌を構え直していた。
何故か一部始終を見極められたレクサールは思わず唖然とする。
それを察したのか、
「見ての通りって云って良いか分からないけど、あれがリオン君の最速。正確に云えば、今振るえる力での限界速度、だろうけど。あの速度があれば、本来防御なんて要らないよね。反応できるはずないもの」
アールマティが解説している間も、簡易な攻撃術法を発動させながら、大鎌を振りかざし、目にも付かぬ速さで暁生に斬り掛かっていた。見切れぬ者からすれば、一条の闇がまるで稲光か閃光のように辺り狭しと駆け巡っているかのようにしか見えないだろう。
先程までの均衡が嘘のようにあっさりとリオンは暁生から主導権を奪い返していた。
「……正直、私には何が起こっているのかちっとも理解出来ません」
クーロンは何とかそうとだけ言うと、途方に暮れた表情を浮かべた。
「大丈夫だよ。あんなのを見切れるのは本当に一握りだけだから。それに」
「それに?」
「明神君の反撃がここから始まるよ」
アールマティは確信めいた強い語調で断言した。




