その13
「承知致しました、敬愛なる姉上様。それでは、失礼致します」
優雅に一礼すると、リオンはそのまま理事長室から外に出ようとする。
「ああ、そうそう。このことを知っているのは貴方だけ?」
扉に手を掛けたリオンに後ろからイシュタルは何気ない調子で確認を取る。「実はもうこっちがドン引きするぐらいに根回しが終わっているとか無いでしょうね?」
「それは考えすぎってモノですよ、姉さん。最初は気まぐれだったモノでしてね。別に誰かに相談する事無く、独りで差配していましたから。その証拠にあっちゃんも知りませんよ」
首だけ振り返り、身内で無ければ蕩かす様な極上の笑みを浮かべた。
「そう、それなら良いわ。謀は密なるを以て善しとす。暫くは秘密にしておきましょう」
イシュタルは敢えてそれ以上追求しようともせず、諄いぐらいに念を押した。
「分かりました。朗報を期待していますよ、姉さん」
リオンは姉に笑いかけ、そのまま部屋を出た。
理事長室を出て数歩歩いてから、
「さあ、楽しい学生生活の始まりです」
と、リオンは誰にとも無く宣言した。
その直後、揺らめく己の影に向かい、
「ああ、今まで送ってきた学生生活は何だったのですか、などと云う無粋な突っ込みは無しですよ?」
と、機嫌良く笑いかけた。
不満げな雰囲気を醸し出しながら、影は再び静かになる。
「楽しみだなあ。生まれてこの方、これほど楽しみな事は無かったなあ」
浮き浮きした調子でリオンは足取りも軽く、廊下を歩いて行くのだった。




