その1
世界と其を守る竜は一対にして分かたれざるモノなり。
世界は竜の巣にして家族なり。
竜は世界の守り手にして兄弟なり。
竜無くば、世界は混沌の海に沈まん。
竜無くば、世界は秩序の元に帰さん。
然ればこそ、竜は世界と離れがたく、世界は竜の庇護を欲する。
されど、紅天世界の竜、己の伴侶無きを嘆く。
その嘆き、竜を奪われし世界に届く。
故に、竜へと甘言を弄す。
我が守護竜を見つけたならば、婿にすれば良い、と。
最強の守護竜たる剣聖紅葉竜皇、それに応じ、蒼天世界へと旅立つ。
紅天世界、其が為に守護竜無し。
然れば、神も魔も人も手を取りあいて、世界を守る。
世界を無に墜とさぬ為にも。
「どんな世界にも、変わり者は居るし、問題児は尽きる事無し」
「全く以て、厄介な話だな。世の中、俺みたいな真面目なのばかりなら平和だろうに」
────世界の成り立ちを初めて聞いた時のとある友人たちの会話より
レクサール・デズモリア。
名門聖リュニヴェール学院に優秀な成績で入学し、ありとあらゆる教科で優秀な成績を残すも、不祥事による退学措置を受ける。
「ねえ、リオン。この履歴の何処が面白いのかしら?」
机の上にある履歴書を指差し、視線の先にいる弟に艶然とした笑みを浮かべながらイシュタルは有無を言わせぬ調子で尋ねる。
「分かっていながら聞くのは狡いってモンだよ、姉さん。当然、あらゆる教科で優秀な成績を残したってところさ」
視線に篭められた魔力を柳に風とばかりに受け流し、リオン・ヴァシュタールは平然と笑い飛ばした。