すべてはエリーが知っていて
とある民家の二階で彼女が首を吊った。
警察によると他殺らしい。部屋には必要最低限のものと一つの人形があっただけで家具類は死体の側にはない。しかも部屋の中央で天井に打ち付けられたロープからのびる輪は彼女がジャンプしても届かない位置だ。
彼女は自分で首を吊れないのだ。
警察は動く。犯人を探すために。しかし犯人はとてつもなく用意周到な人物らしい。
まず指紋がない。そのつぎに髪の毛一本も残さず、さらには物を動かした痕跡もないのだ。いくら調べても出てきたのは人形に使われたと思われる糸くずだけだ。
それに犯人はとても力が強かったに違いない。何せ彼女は成人した人間だ。成人を担いで持ち上げるなどいくら女性でもきついはずだ。しかも彼女は直前まで普通に生活していた形跡がある。意識のある人間を担いで首を吊らすなど普通は無理だ。
そうして捜査は難航していく。
犯人は身近な人物だ。なぜなら部屋がきれいだからだ。極力物に触るのを避けている。
いやいや、知らない人だろう。だからわざわざこれでもかというぐらい痕跡を消したんだ。知っている人なら逆に痕跡を残すだろう。
ちょっと待て、じゃあ何でここまで部屋がきれいなんだ。
そんなの決まっている。知っているからこそ触らなく出来たんだ。
汚い部屋ならわかるがこの部屋はきれいだ。知らない奴でも触れないことは出来る。
まあまて、別の視点から考えよう。
意見はいろいろでた。しかしどれも結論に達することはなかった。どれも調べた。でもいくら捜査しても意見を言い合っても進むことはなかった。そうしているうちに一つの疑問が浮き上がる。
なあ、あの人形おかしくないか。
おかしいってどこがだよ。
あの人形だけさ、なんていうか、そう違和感があるんだよ。
どこが? 必要最低限のものだけじゃやっぱさびしいだろ。人形が心の支えだったりするだろ。
お前なあ。まあいい、俺が言いたいのはな、捜査をしても人形のカスっていうか、糸くずだったり綿だったりそういうのしか出てこない。逆に言うとだな。それが出てくるんだよ。
ああそういえば、日記も人形とああしたこうしたばっかだったな。まあ日記は自殺をほのめかしてたがな。でも自殺の線は薄いぞ。
自殺のことじゃなくて……だからさ人形が怪しくないか。
おいおいよしてくれ。俺はオカルトなんか信じちゃいねえ。おお怖い怖い。
茶化さないでくれよ。そういう意味じゃないさ。その人形の素材で服を作って着ればな、いいんじゃないかってね。
人形の素材でねえ。よし調べてみるか。その人形の素材を調べてくれ。俺は日記の人形の部分を調べてみるよ。
二月五日
人形をかったエリーとなずけよう
二月十六日
仕事が大変だエリーと遊んでストレス発散しよう
三月四日
ああいらいらする。エリーを引きちぎりたくなる
三月二十日
最近暴力的になってきた。エリーに八つ当たりしてしまう。
四月三日
もうだめ。仕事をやめたい
四月十二日
やめれない。やめれない
五月一日
すべてはエリーに託す。
五月二日
さようなら。エリーはすべてしっている。
やはり日記は自殺をほのめかしている。だが自殺は出来そうにもない。だが一つ気になる文があるすべてはエリーに託す、というところだ。
おい。おもしろい分があったぜ。
ああそうい。実はこっちも面白いのがあったよ。
そうか、まあそれはあとできこう。エリーがすべて知ってるんだと。
おお、それはそれは。こっちの検査の結果、すごかったよ。今の君の話で全貌がわかったね。
ほう、そうか。俺にも教えろよ。
いいかい、まずエリーは彼女から殴られたりしてたね。中の綿がぶっちぶちさ。そしてそれがもれたんだろうね。でもさ部屋中に落ちてるのはおかしい。つまり誰かが撒いたわけ。君の話から推測すると彼女が撒いたんだろうね。
おいおい、俺の話のどこからそんな結論になったんだよ。
聞いてればわかるさ。彼女はね仕事でトラブルがあったそうだね。きっとそれの仕返しかな。嫌いな相手の代わりにって奴さ。それでね特にひどかったのが首の部分だね。何度も糸で縫った後がある。殴りすぎて頭と体がお別れしまくったんだろうね。
おお怖ええ。
そうさ、でもこれからもっと怖いよ。今の話を踏まえるとさ、人形はとってもいじめられて負の感情をぶつけられているわけだ。だからかなかってに人形が動いたんだよ。そうとしかいえない。
おいおい、やっぱオカルトか。そんな話はやめだ。……ったく時間を無駄にしやがって。
もう、最後まで聞けってば。おれだっておかしいと思うけどさ。調べた結果、人形が引きずられて動いた形跡があるんだよ。普通さ人形って手にもつだろ。わざわざ引きずって運ぶかな。
知らねえよ。オカルトは勝手にやってろ。とりあえず引きずられたんだから底重点的に調べるぞ。
もう、聞いてってば。
うるせえ。何かあるたびにオカルト話につなげやがって。行くぞ先輩権限発動だ。
……はい。
彼らが部屋から出て行く。
事件の新たな情報を頼りに道を探し出す。彼女はエリーに何を託したのか。エリーは何を知っているのか。それはエリーが知っている。
誰もいなくなった一室。人形の目が光ったような気がした。
このような短編を読んでくださりありがとうございます。
有意義な時間をすごせたと思われましたのなら、とてもうれしいです。