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雪の結晶  作者: さい
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思春期 二月(教会)1



「じゃあ、後々、家で」

放課後になり、武と別れた。このまま武の家へ一緒に転がり込んでもよかったが、そんな気分ではなかったので、適当な用を告げて後で会う約束をする。もちろん、おばさんにお礼を伝えてもらうことを忘れてはいない。

「七時に」

そういいながら手を挙げて見送った。受験は終わったから塾ではなく家にそのまま帰ったのだろう。

自分も武と逆の方向を歩き出した。決まった用は無かったが、なんとなく足は昔通った場所へと進み始めた。

(高校が決まった報告はまだだったな)

自分が落ち着いてからあまり行くことはなかったが、今日は足を進めることが義務感として感じていた。


学校から十五分ほど歩くと、赤いレンガ造りの教会が目に付き、小さいころ通いなれた道を思い出に浸るように歩いた。

その教会は庭が広く近くの近所の小学生の遊び場となっており、近所に公園が少ないからだろう十人ほどの子供がサッカーボールを追い掛け回していた。この頃の子供は呆れるほど元気なのである、奥のほうに目をやると黒いランドセルが積み重なるように置いてあるのが見えた。

 油切れだろうか大人でも重い観音開きの大きな門扉を開け、ふと無意識に上を見上げた。屋根の上に大きな十字架が威圧的にこちらを見下ろしていると感じる、ここで信者かどうか検閲しているような雰囲気だ。

自分はキリスト教を信仰としていない、れっきとした無神論者を貫いているが、しかし、ここで自分は救われた過去があった。

(しばらくぶりだな)

 受験勉強で忙しかった為に、ここにくるのは半年振りだ、しかし、その懐かしさは自分を温かく迎えてくれ、そして心地よい、それはここの主の顔を鮮明に思い出させるほどである。

 門から、十数メートルに教会に似合いそうな大きな扉が自分自身を迎えてくれた。その扉の上は魅入ってしまうほどのステンドクラスが、大きなアーチ状のはめ殺しの窓に彩り良く飾ってある。

 自分は習慣としてそれを見入ってから大きな扉を開けた。

 中に入ると大きなホールが自分を出迎えてくれた。地元でよく結婚式とかで使われる教会だ、中はかなり広い。

 扉を閉め正面を向くと、中央の壇上に黒い服の初老の男性が下を向いて本を読んでいる。子供達の出入りが多いためか、彼は扉の開け閉めでは顔を上げることはない。

 左側面に飾られている時計を見た、針は三時半過ぎを刺している。迷惑でなければ、しばらくここで話し込んでも大丈夫だなと思い、もし、早く終わったら一度家に帰ろうと考えながら、その恩人のもとへ歩を進めた。

 それは、どうしようもないあの日々から救い出す切っ掛けをくれた恩にやっと自分が応える資格を持ち、それに早く伝えようとする焦りを抑えながら。

 


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