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雪の結晶  作者: さい
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思春期 二月(学校)3

はい、ありがとう、二十三日土曜、楽しみにしててね」

 そう言いながら、自分や武が書いたプリントをなぜか勝ち誇った感じで眺めていた。

「まぁ、楽しみにしてない程度に楽しみにしておくよ」

 実際のところ自分の本音である。目の前の親友に目をやった。彼はあかねがこの場に着てから借りてきた猫のように大人しい。

(遠慮することはないのにな)

 自分はそうあかねと今まで接してきた。

 無論腐れ縁ではない、あかねと始めて会ったのは中学生になった時である、小学校は別々の学校であった。武とは小学校からであるが、あかねとはそれまで存在さえ知らない他人であったのだ。出会った切っ掛けを話さなくてはならないとすれば、二年の他愛もない自分の教科書の忘れ物からである。三年になって武とはおなじクラスになったのだが、一年に二年と別々のクラスであり。

 次の時限に行われる英語の教科書を忘れた自分は、武に英語の教科書を借りようとして教室に行ったのはいいけどその時、職員室へ呼び出しか何かで不在であった。

 その時、取次ぎをしてくれたのは、小川 あかねでだったのだ。困った表情をしていた自分を見て「なんなら、あたしの貸してあげるね」と言われ、自分はその行為に甘えた。切っ掛けといえばそんなものだ。そこから学校で偶然ばったり出会ったら少し話す程度になったのだが。

 武が彼女に好意を持っていたのは後ほど知ったことで、その時自分は「気軽に話しかけてみろよ」と嗾けたが「どうも高嶺の花で話しかけづらい、そんな雰囲気を感じる」とすんなり返された。

 そんな物なのかね、武士じゃないのだから手合わせする前に相手の力を読んでも仕方がないのに、とつくづく思う。彼を知り己を知ればは、孫子の学問だ、思春期の中学生にその学問はまだ必要ない。

 確かによくよく見れば容姿端麗で後ろから後光を刺した感触は感じるが、自分はそんなことどうとも思わない、どこにでもいる普通の女性にしか思えない。お前の趣味ではないからだろと言われればそれは否定する。自分の理想の女性像そのままであるが、人様が騒ぐほどではないと断言できる、ましてや美人がいると言うことで隣町から見物に来るほどであるがそんなことやっている暇があるなら、学問に精をだせばきっといい結果を得られるのにと思いながらも静観してしまうのが自分だ。まぁ、天邪鬼と言えばそれに当たるが、

「ところで、あかね」

「ん、なに?」

 立ち去ろうとしていた所を呼び止められたためなのか、彼女は少し気の抜けた表情になっていた

「あかねは、高校は部活とか入るのか?」

 あかねは少し考えるポーズをとりながら、

「うーん。どうだろ、もしかしたら向こうで友達とかできたら、その子に連れられては入るかもしれないけど、ほら、うちらが進むのって超進学校じゃん、大学受験とか厳しい高校だと思うのね、だから今のところは決めてないって所かな」

 そして、返したように自分達に尋ねてきた。

「和馬と小塚君は、どうするか決まっている?」

「今のところは考えてない、まぁ、たぶん帰宅部だと思うけど」

「俺も、和馬と同じだと思う」

 それを聞いた、あかねはなぜか表情を崩して。

「そっかぁ」と言い、そして次へつなげた。

「それよりも、二人とも、仲いいのね、なんか羨ましいな。ほら腐れ縁というのかな、小学 校、中学校、そして高校も同じ学校になるし、それに比べてあたしなんて次は誰もいなくて」

 今回の進学で、あかねは仲のいいグループから外れることになる。県内でトップに入る学校へ進学するからだ。かなりの人気高でもあり志願者は十数人いたが結局合格をもらったのは、あかねと自分、そして武の三人だけであった。合格者の殆どが私学校であるから。合格者が三人も出した公立のうちの学校は大健闘し、勲章ものの部類に入る働きだろう。

「ちょっと、待って、あかね。どうせおなじ地元なんだから、中学の友達とも遊べると思う ぞ。それに高校生になったらたくさんの友人もできる、違うか?」

 あかねはゆっくり首を振った。

「ううん、卒業したらきっとミコ達とも遊ぶのは難しくなると思うの。それに高校に入っても新しい友達作るのって難しいよ、きっと」

 自分は、その次言われるまでなぜそんな事を言うのかは解らなかった。

「ほら、知っている?あの高校って、医学部や国公立大学を目指す人がほとんどだって」

 自分はなんも考えずに決めてしまったのだが、たしか、合格した後その話を聞いた事がある。県外各地から目指してその高校に入るくらいハイレベルな程だ。

「あぁ、知っている」

「聞いた話だとね、なんか周りのみんながライバルって感じで学内がピリピリしたムードらしいの。あたし、それ聞いて少し後悔したかな、だって、折角の青春が水の泡になったぽくて」

 心底がっかりしたのだろう、そりゃ高校生になったのだから、勉強以外でも部活や恋に青春を謳歌してみたい。一度しかない憧れの高校生活を勉強だけという無味無臭の味気ないものに終わらせたくないという気持ちは十分理解できるのだ。

「まぁ、確かに、杞憂だと願いたいな」

 ふと、自分ら二人が話していると、何も声を発しない武が気になって見た。自分らの会

話を首で追っている彼を確認できた、先ほどの饒舌はなんだったのだろうか、ふと思ってしまう。

「じゃあ、行くね」

 あかねは、手を軽く上げながら行こうとすると、急に立ち止まり。

「あっ、そだ。二人とも高校に行っても仲良くしてね」それを付け加えて表情を崩し笑顔を見せると後ろに振り向いた。

「おう」「もちろん」その声は聞こえてないかもしれないが、反射的に答えた。

 自分自身なぜ、呼び止めたのかは解らなかった。もしかしたら、武の為と思ってやったことだと思うが、そこまで自分はめでたい人間ではないことは確かだ。しかし、目の前に居る友人は表情を表に出すことは無かったが嬉しそうである。まぁ、これで良かったんだろうなと訪ねる事なく自己完結に陥った。

「そう言えば、和馬」

 借りてきた猫の時間は終わったようだ、居なくなってすぐ何時ものに戻った。

「ん? どうした」

「お袋がな、今日もし和馬君が大丈夫なら夕食一緒にどうですかと言っているのだけど、今日 も大丈夫か?」

「いいのか?」

 武は笑いながら、いつも自分の遠慮をあっさり否定してくれる。

「気にするなって、お袋も親父も和馬なら大歓迎だよ、じゃあOKって事でいいんだな」

「あぁ、本当にありがとう」

 本心でそう思っている。

「今日は鍋らしいぞ、ほら鍋は人多いほうが楽しいだろ」

 武とおばさん達に感謝は、一生忘れてはならないだろう。自分は中学生という未成熟ながらも義理深く感じていた。


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