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雪の結晶  作者: さい
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思春期 二月(学校)2

 卒業旅行、行き先希望アンケート

と言う、女の子が書くような可愛いイラスト入りプリントである。中央には希望場所と大きな囲いがあり。下の方に書いてあることは二月二十三日(土)に決行予定、と書いてあった。


雨の日だと先延ばしになるのだろう。

 武も、自分と同じく机の中に入れていたのかすぐに見つけたようで、プリントをもって後ろの自分の方を向いた。

「実際、いまのところは何に決まりそうですか?」

 武は、自分とは違う口調であかねに話しかけた。その話し振りからして、パーソナルゾーンに立ち入れない躊躇いらしきものを感じる。

「とりあえず、第一候補は遊園地かな」

 中学の学内でやる範囲はそんなものだろう。仲のいい人たちは泊りがけの旅行も計画するかもしれないがいい筋である。

「時点に、北海道旅行や、沖縄旅行などそういう案もあるけど、ま、無理でしょ」

 そんな事を書いても採用しないよという念押しに感じた。

「なあ、遊園地を書けって遠まわしに言っているようなものではないか」

「そうなるね、必然的に」

 あかねはそこで笑みをこぼした。

「民主主義の世の中で、そんなことを笑顔で言われてもな」

 自分は、そう言いながら、印刷された紙をあかねに突き出した。決まっているならどうにでもしろ、という事である。

「だからこそ、選挙ってものが必要でしょ、それに選挙に参加しない人が国政を文句言う資格がないと同じ事で、後々いちゃもんつけられても困るって事もあるから意見を集めているのよ」

 そういいながら、自分が差し出したプリントを押し返した。

ふとこう言うめんどくさい事は、勝手に決めてくれという願いもあった。

それにこの国は大切なことは国が秘密裏に裏で決めており表面化したと思ったら議論を交わす前に強行採決で可決してしまう国だ。そんな謀り事ばかりの一国に、わざわざ地方中学校の決め事ぐらい遵守することはないのに、そう思ったが反論する気にはならなかった。

武は、自分とあかねのやり取りを見つめていた。こういう時ほどうまい一言を言えば溶け入ることができるのに、自分はなんとなく、彼の唯一の弱点をあげるとこの不器用さかなとふと頭の中に過ぎった。

自分は、諦めの表情で息を吐くように言った。

「じゃあ、遊園地と書けばいいのですね、お姉さん」

 組織票を集める支援団体が一票をとりつけたときの如く、声のトーンや元気いっぱいの笑顔を見せて

「そそ、お願いね」

 と言った。すこしわからないような溜息が無意識に出る。自分はその頼みを聞くと、机の中から筆箱を取りシャーペンを取り出した。武もそれを見て、筆記用具を取り出そうと正面向こうとしたが自分が制止した。

「武、ほらっ」

 二本あるシャーペンのもう一本を渡した。武はそれを受け取って

「サンキューっと」

 と言い、ペンを走らした。もちろん書くことは遊園地である。自分もそれに倣った。海外旅行『ハワイ』と書いた時点でこいつに引っ叩かれるだろうなと思いながら。

(確か、憲法に表現の自由という項目があったはずなのだが・・・)


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