愛の形‐other side‐
金曜日。
僕は金曜日になると毎週ある場所へ行く。もう1年ほどになるだろうか。
初めは友人に連れて行かれたんだと思う。興味本位でなんとなく行ってみただけ。そうだったと思う。
そこは俗にいう『ツンデレ』というキャラクターをモチーフにした喫茶店で、正直そういったものに興味がなかった僕にとっては別世界のことのようなイメージがあった。
―彼女に出会うまでは。
彼女はそこのウェイトレスで、毎週金曜日、アルバイトをしているようだった。
『ツンデレ』というものはよくわからないが、彼女にはよく似合っていたと思う。
僕は彼女に会うのが楽しみで毎週金曜日に通っていたのだ。
あの店に通い始めてから1年ほどたったころ、恋人ができた。
大学のゼミの後輩で、なんとなくというと失礼な話だけど、僕たちは付き合い始めた。
ある金曜日、デートをすることになった。
待ち合わせは駅前の広場。なんとも普通でひねりのない場所だが、初めてのデートだし、空回りはしたくないので。
服装はいつもよりちょっとお洒落してみた。友人が見たら笑われそうな気もするけど、別に気にしない。
待ち合わせの時間まで結構時間ができてしまった。あと1時間ほどだろうか。
僕は時間つぶしと毎週の習慣からいつもの店に行くことにした。
店に入る。
「また来たの?毎週毎週のこのことやってきて、暇なわけ?他にすることないの?」
いつもの彼女が出迎えてくれた。
適当な席に落ち着くと、彼女が水を持ってきた。
「はい、水」
メニューは・・・このあとデートだし、飲み物だけでいいか。コーヒーにしよう。ぼんやりと考えていると彼女が話しかけてきた。
「今日はいつにもまして服装に気合いが入ってるわね。馬子にも衣装とはこのことだわ」
とても驚いた。彼女に気付いてもらえた!
「ああ、やっぱり分かりますか?実はこの後デートなんですよ」
気づいてもらえた嬉しさもあってか、僕の声は少し弾んでいたと思う。
「・・・ふーん、あんたなんかと付き合おうなんて、奇特な女性もいるのね。たで食う虫も好き好きといったところかしら。で、ご注文は?さっさと決めてよね」
・・・なんだろう、彼女の表情が少し曇ったような気がする。
コーヒーだけでは物足りない気がしたので軽く食べることにした。
「はい、他のお客さんもいるんだからさっさと食べなさいよね」
「ありがとう」
コーヒーを一口。
「・・・別にあんたのことなんて何とも思ってないんだけど」
いつもとどこか違うトーンで彼女が話す。
「恋人がいるのにこういうところに来るの、どうかと思うわよ?その子のことが大事ならなおさら」
彼女はこちらを見ようとしない。
「あんたなんか馬に蹴られて死んじゃえっ」
彼女は去って行った。僕の手元にはコーヒーと、少しの驚きと、困惑が残った。
デートは無事に終わった。喜んでもらえたようで良かった。
ただ、僕の心はどこか上の空で、気がつくと彼女の言葉を繰り返していた。
たしかに、彼女に会いたいから通う、というのは不謹慎な気がする。
それから数週間がたった金曜日。
僕はまたデートをしていた。
「おすすめの喫茶店があるんだ」そういいながら向かうのはあの店。
初デートの日に行って以来、顔を出していなかった。
店に入る。
「ふん、一応歓迎しておくわ」
いつもの彼女の姿はそこにはなかった。
困惑しながらも席に着く。
見覚えのないメイドさんがやってきた。
「メニューは決まったの?早くしなさいよね」
「あの・・・」
「なに?決まったの?」
「いや、いつも金曜日にいた子はいないんですか?」
その質問をした瞬間、メイドさんの顔色が変わった。
「なんであんたにそんなこと教えないといけないのよ。さっさとメニューを決めなさい」
はぐらかされてしまった。彼女は一体どうしたのだろう。
「どうしたの?」恋人が話しかけてくる。
「うん。なんでもないよ。どれにしようか」
メニューを選びながら僕は、彼女はどこかへ行ってしまったのでは、そう考えていた。




