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星月の約束  作者: 三木光
5/9

絶望

妹の痣は、中々消えない。そればかりか、増えている様に感じる。



「お兄ちゃん。今日は、早く帰ってくる?」

「うん。すぐ帰ってくるよ。だから、大人しく寝てな?」

「はーい」



 その妹の弱々しい笑顔に、何故か胸がぐっと苦しくなる。

明るく元気だった妹は、あの人がうちに来てからよく体調を崩すようになった。理由なんて分かりきってる。妹も、心の何処かで感づいているのだ。


 この人が、母さんを奪った。


悔しくてたまらないが、僕らの力では、アイツをこの家から追い出すなんて出来ない。



「せーいーじーくん」



学校への通学路。早朝の気持ちのよい風にも全く気分が晴れず、とぼとぼと歩いていると、後ろから気の抜けた声。


振り返れば、今日も前髪でほとんど顔が見えない少年の姿。

軽く右手を上げ、やぁ、やぁ、やぁと俺の隣まで歩いてくる。



一体、コイツは何者だろうか。



一見同じ年頃の様だが、制服を着ている訳でもなく、学校へ通っている様子もない。

シャツに紺色のズボンを履き、ただニコニコと笑っている。


・・・・何故こうも、自分は怪しい人物に好かれてしまうのだろう。


さも当然の如く隣に立つなも知らぬ少年を見れば、あれ?とソイツが首を捻った。



「姫は?」

「誰のことだよ。そして、いい加減お前は誰なんだ」

「ルナぴょんだよー。今日は一緒じゃないの?」

「具合が悪くて家だよ。お前に関係ないだろ。じゃあな」

「俺だったら、1人にしないなー」



歩き出した僕の足を、ソイツの何気ない言葉が制する。


どういう訳か、嫌に胸奥深くに突き刺さった。何なんだ。何でコイツの戯言なんかに惑わされなくちゃいけないんだ。



立ち止まった僕に満足したのか、ソイツがニンマリと笑い、小走りに走って来る。



「姫から教えてもらったんだ。私は月のお姫様で、星児くんに守ってもらうんだって」

「だから何だよ」

「姫のピンチに颯爽と助けに行くって約束したんでしょー?」



そこで言葉を切ると、今までおちゃらけいたそいつが、真っ直ぐ僕を見た。


初めて垣間見えた、ソイツの目。散々気持ちの悪いやつだと思ってたけど、透き通るような、綺麗なビー玉みたいな目に、息が止まる。



「今が、その時なんじゃないの?」



どういう意味だ?


未だヤツの何もかもを見透かすような目に囚われたまま、眉ねを寄せる。今が、その時?


一瞬チラついた月の紫色のアザに、目を見開いた。



「まさかっ」



巡った思考に、反射的に走り出す足。目の前に立つ、名も知らないソイツを突き飛ばして、一目散に家に舞い戻る。



『お兄ちゃん。今日は、早く帰ってくる?』



聞き逃していたのかもしれない。小さな妹の、SOSを。


焦る気持ちに、足が絡まる。何回もこけそうになりがら、妹のいる家へと舞い戻った。









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