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星と月
僕は、忘れない。
『お兄ちゃん。何か変だよ』
『大丈夫だ。お兄ちゃんがついてるから』
無茶苦茶に運転する、父さんの狂気じみた顔を。
体が天井にぶつかってしまうほどの、車の振動を。
『お父さん!どうしたの!?ねぇ、お父さん!』
『ルナ。いいか?お兄ちゃんの手を離すなよ!絶対離すな!』
震えていた、自分の手を握る小さな手の感触を。
車の窓から見えた、漆黒の闇に輝く月の光を。
『キャァァァァ!!』
『ルナ!』
容赦なく自分たちを打ち付ける、あの波の衝撃を。
あの、水の冷たさを。
あの、呼吸の苦しさを。
あの、煮えたぎるような雪辱を。
母さん、僕は。あなたを殺したあの女を、
闇へと、葬ります。