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旅の起源 ~鳳ハヅキ~

基本的にコメディー要素満載ですが、幅を広く書いているのでファンタジー小説とはかけ離れた雰囲気のシリアスさも含み、ギャップが激しい作品です。


 第一章 第一話 旅の起源~鳳ハヅキ~


  僕は玄関の扉を開く。

 玄関には、靴が沢山転がっていた。あ、この汚れた黒いのは僕のだったな、と思い出す。

 六人も居る兄弟が皆して脱いだ靴を揃えないので、狭い玄関はいつも靴がぎゅうぎゅうと押し競饅頭をしているみたいになっていた。

 そのせいで母は仕事から戻ると、いつも「ただいま」と言うよりも先にそれを咎めなければならなかった。僕らはすぐに「はーい」と気持ちの良い返事をした。その割に靴を綺麗に並べ直す奴は居なかったので、母は決まって「返事だけは良いのよね」と言った。

 「ハヅキ」

 一つ下の弟、光一が居間から顔を出す。

 兄弟の中でとりわけ仲が良かった光一は、僕の事だけは名前で呼んだ。僕の上にはさらに二人の兄が居て、一番上の兄は僕よりも五つ上、二番目の兄は三つ上だった。光一はどちらの兄を呼ぶ時も「瑛兄ちゃん」「和馬兄ちゃん」と、名前の後に「兄ちゃん」と付け足して呼んでいたが、僕の事だけは「ハヅキ」と呼んでいた。

 「ハヅキ、お帰り!」

 光一は昔から僕が帰ると、大抵一番最初に出てきてくれていた。

 久しぶりに光一の顔を見た。懐かしい光一の顔。僕は喉の奥がツンとするのをグッとこらえる。

 あぁ、このごった返した玄関。そして光一。僕は帰って来たんだ。家に、帰って来たんだ……。

 「ただいま。……ただいま、光一」

 積み重なる靴の上、子供の頃みたいに僕は、さらに靴を脱ぎ捨てる。

 ぎしぎしと音を立てる廊下を、僕は足早に歩いた。早く兄弟の顔が見たくて、気が急いていた。

 玄関から廊下を歩いて、右手に居間がある。左には台所と食卓。

 僕はまず光一が顔を出していた居間を覗き込んだ。

 「お帰り、ハヅ」

 「お帰りー」

 「ハヅ兄、お帰り!」

 僕は堪え切れなくなる。視界が涙で歪んだ。久しぶりに会えたのに、顔がよく見えない。

 「瑛兄……、誠司、尽……」

 確かめるみたいに、名前を呼ぶ。誠司は僕より三つ下の弟で、尽は四つ下。

 笑顔が、口調が、その雰囲気が、あまりに昔と変わらなくて、僕は氷の様になってしまっていた心がドッと疲れを吐き出し、解けていくのを感じた。

 「ハヅ、お前、今日も抜き打ちテストで満点だったってな。光一から聞いた」

 「ハヅキの担任に聞いたんだよ。お前も負けないように頑張れとか言われた」

 ……抜き打ちテスト?

 解けはじめた心が、また凍り始める。ゆっくり。

 「ハヅ兄、すごーい! 僕にも勉強教えて」

 「僕も!」

 勉強……?

 「これやるよ、次に満点取ったらって、約束だったから」

 瑛兄が、学生鞄からペンを取り出した。瑛兄が初めて自分のお小遣いを貯めて買ったペンだ。

 僕はそれが羨ましくて、どうしても欲しくて、「飽きたら僕に譲って」と瑛兄にお願いした。

 瑛兄は優しいから、満点と引き換えだと言ったんだ。

 僕は怖くなる。

 いらない、そんなのいらない。

 「ほら、頑張ったな」

 瑛兄が立ち上がって、ペンを僕に手渡す。

 五つも年上のはずの瑛兄は、僕を下から見上げていた。

 そうだ。僕はもうずいぶん前に瑛兄の歳を追い抜いた。

 歳も、背も。もう追い抜いた……。

 僕は、また失望する。



  「……ヅ……おい! ハヅ! 起きろ!」

 聞きなれた声に何度も呼ばれて、僕は目を覚ました。

 ものすごい勢いで、体が勝手に上半身を起こす。

 桜紅弥が迷惑そうな表情で僕のベッドの側にしゃがみ込んでいた。

 「もー、ほんとお前と同じ部屋になると迷惑だ……」

 「……ごめん」

 また夢だった。何度も何度も、僕は同じ夢を見る。かつての家、仲の良かった兄弟達、そして瑛兄との約束のペン。

 あれは僕がまだ十一の頃だった。今から丁度十年も前の事だ。

 瑛兄からもらったペンは今も肌身離さず持っている。インクはもうないけれど手放す訳にはいかない。僕にとってはお守りになっている。

 「……もういいよ別に」

 桜紅弥は口は死ぬ程悪いけれど、根はものすごくいい奴だ。一緒に旅を続けている仲間内で、実は一番情が深いんじゃないかとさえ思っている。

 こうしてうなされる夜も、「迷惑だ」とか「うるせぇわ」とか言いながらまた僕が眠るまで起きていてくれる。文句だけはしっかりと言うけれど、それでも、何も聞かずに。

 カーテンを開けると、外は嵐だった。

 「夏も終わりだな」

 部屋の小さな冷蔵庫からビールを取り出しながら、ぼそっと桜紅弥が言った。

 嵐の音。嵐の音は嫌いだ。

 嵐の夜に、僕は自分以外の全てを失った。


 

  もし死ぬ前にたった一つ願いが叶うとしたら、僕は迷わず願う。

 家に帰りたい。

 ほんの一時間でいい。

 僕等を甘やかしがちな父と、世話焼きな母、そして賑やかな兄弟達が居るあの家に帰って、何気ない時間をもう一度だけ見つめたい。 

目を通していただいて、本当にありがとうございます!

ファンタジーとコメディー要素を強く入れつつ、シリアスさもガッと入れていくので、ギャップの激しいお話になり、あまり前例のない雰囲気になると思います。

私自身も初の試みなので、試行錯誤を重ねていますが、まとまりがなくならないように頑張ります…!

少しづつ書き足していくので、長い目で見守ってやってください★


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