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入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?  作者: teri


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5/11

5.発熱パニック






「だめだーー…めっちゃ熱ある」


 赤い顔をした純太が、病院の自動ドアから出てくる。手に持ったスマホの操作もいつもより辿々(たどたど)しく、ようやく開いた発信画面は会社の番号を表示している。


「えー!? 39度?! 高熱だ、病院で検査はしてもらった? そっか今流行ってる感染症は全部陰性だったんだね。うん、大丈夫。こっちはなんとかなるから、このまま早退しな。上司には伝えとくから! 5月から引っ張りだこだったもんね、ゆっくり休んでね」

「せんぱい……すいません。ありがとうございます」


 現在の暦は9月。過労で倒れていた先輩が復帰して、ルイとのCMも無事にオンエアされ大ヒット! 第二弾も是非にとプロジェクトが動き出した……そんな矢先のこと。

 先輩の代わりに駆け抜けた約4ヶ月、その人当たりの良さから、鷹宮だけでなく他の取引先からも四方八方呼び出されて、とにかく大人気だった純太は本人の気付かぬうちに疲労を蓄積させていたらしい。


 ヨロヨロと自宅に着くと先輩からメッセージにて、遅めの夏休みと療養休みで2週間ほど休暇になったことを教えてもらい、最後の力を振り絞って「ありがとうございます(ニコニコマーク)」と返信したところでスマホを手放し、純太は布団にダイブして深く眠った。




 一方そのことを、1ミリも知らない鷹宮は頭を抱えていた。


「どうしよう……連絡がない」

「誰からーー?」


 鷹宮の憔悴した様子を見て、心配しているというよりも、どこか面倒くさそうなルイがソファにもたれながら聞き返す。


「ふ、藤白くん」

「あーー、ワンコね(やっぱりな……)」

「なんかあったのかな、もう半日経つのに」


 話しながらもメールアプリを常に下にスワイプして、メールが来ていないか更新する鷹宮。


「?? そりゃ返信が遅れることもあるだろ」

「いや、知り合ってから今まで真夜中以外で2時間以上遅れることはなかった!」

「えぇ…統計取ってるのかよ!? こわっ」

「絶対何かあったんだ……」

「じゃあ会社に連絡すれば?」

「……」

「あーはいはい、会社に連絡してワンコが普通に仕事してたら、逆に忘れられてて立ち直れないってかんじ?」


 青い顔して頷く意外と繊細な鷹宮の気持ちを読み取るも、あまりの心酔っぷりに実はドン引きしているルイ。


「でもさぁ、なんかあった方がやばいんだし、かければいいじゃん」

「……確かに」


 しかし踏ん切りがつかないのか、鷹宮はウダウダぐずぐずとなかなか電話をしない。このやり取りに飽きたルイは大きな欠伸をしてからスタスタとデスクの方へ赴く。


「遅い」

「うわぁ!」


 番号を表示した画面下部にある発信ボタンをルイにポンと押されて、鷹宮は慌てて耳元に電話を持っていく。

 担当者直通の内線番号電話にかけたので、早退していない純太の代わりに在席していた先輩は、ふと見慣れた番号に気付き受話器をとる。


「鷹宮さん!」


 電話の向こうから知っている声が聞こえて、ほっとした鷹宮は一瞬でよそ行き声に切り替えると、爽やかに話し始める。


「お忙しいところ申し訳ありません、藤白くんは……」

「すいません、藤白は体調不良で休みなんです」

「た、体調不良!? 大丈夫なんですか?」

「今朝から体調が悪そうだったんで、病院に行かせたら39度ほど熱が出てて早退したんですよ。それで夏休みも兼ねて、今回しばらく休みになる予定なんです。鷹宮さん、もしかして藤白に何か仕事の連絡でした?」

「あ、いや、そうなんですが、連絡が返ってこなかったんで、何かあったんじゃないかと」

「ご心配いただいてたんですね! さすが、優しいなぁ」


 下心があるとは言えない鷹宮が、うっと胸をおさえる。真横で先輩の声を一緒に聞いていたルイはニヤニヤと笑っている。


「私が休みの間、頑張ってくれてたんで疲れが出たんだと思うんです。しかも人懐っこい性格だからか大人気で、色んな取引先に呼び出されたりしてね」

「そ、そうなんですね」


 自分も呼び出していた側なので、さらに胸が痛む鷹宮。ルイは我慢できず、少し離れたところで爆笑している。


「上京して初めての体調不良で心細いと思うし、私も心配なので今日仕事終わりに差し入れを持って様子見にいく予定にしてます。それで藤白のかわりができるなら、私が用件お聞きしますが…」

「いや! それよりも、……そのお見舞いについていくことはできますか?」


 これには、さすがの先輩も目を丸くして驚く。しかしすぐに何かを察したのか、大丈夫ですよと言って待ち合わせ場所を決めると、静かに電話を切った。


「うーーん、藤白くん。あの鷹宮さんをここまで虜にするなんてすごいな」


 顎に手を当てて半分冗談な気持ちで先輩は1人呟く。




『ピンポーン』


 インターホンの音で目が覚めた純太はフラフラとした足取りで玄関へと向かう。


「あ、先輩…」

「藤白くん、大丈夫? わぁ、すごいしんどそうなのに、歩かせてごめんよ」


 持ってきた差し入れを玄関に置いて、すぐに純太を支える先輩。そんな優しさに触れて、じんわりと純太の目尻に涙が滲む。


「すいません、気を遣わせてしまって」

「こちらこそ休んでる間、無理させてごめんね」

「そんなことないです、先輩は悪くないです」

「ほんと、いい子なんだから」


 純太の健気な様子に、先輩もホロリと涙が込み上げる。割って入れないような2人のやり取りを後ろでコソコソ見ていた鷹宮は、なるべく気配を消そうと静かにしていたが、漏れ出るオーラがそれを許してはくれない。


「え……た、鷹宮さん?!」

「あ、藤白くん、大丈夫?」


 眩しいオーラに目をシパシパさせながら、慌てる純太。なぜ、自分の家に鷹宮が来ているのかわからないのだろう。


「な、え? なんで? ですか?」

「鷹宮さんも藤白くんのこと心配しててね、だから一緒にお見舞いに来たんだよ」


 ちなみにルイも行きたいと言ったそうだが、明日早い時間の仕事があるのでと鷹宮からNGを出されて、来られなかったらしい。さらっと先輩がそう教えてくれたが、まだ今の状況を理解できない純太は頭に大きな?を浮かべつつも、とりあえず2人を玄関で足止めするわけにはいかず部屋へと案内した。


「すいません片付いてないんですけど」

「いやいや、体調悪いし仕方ないよ」

「突然きてごめんね」

「どうぞ」

「「!!」」


 お邪魔しますと入った2人は、部屋の惨状に絶句する。八畳ほどの部屋の真ん中にポツンと敷かれた布団。そして片隅には引っ越しの段ボールが開けられないまま積み上げられており、その隣には洗濯物が山になっている。汚いというよりも、何もなく寝るためだけの部屋のようだ。


「藤白くん、もしかして引っ越してからこのままなのかい?」


 そう純太は4月末に引っ越してきてから荷解きをする間もなく仕事をしており、家に帰っても寝るだけの状態が続き、休みも寝ることに特化したせいで家電も買えておらず。コインランドリーで洗濯していたので、体調不良の今、洗濯物は山のように溜まっていた。


「これは、療養できる環境じゃないね」


 唯一ある冷蔵庫に持ってきた物資を入れようとした先輩は、中に水とウィダーしかないのを見てパタンとすぐ扉を閉める。そして、布団にぺたんと座っている純太の手をギュッと握りしめた。


「僕の家においで」

「えぇ!?」

「ここじゃ治るものも治らないよ」

「で、でも……」


 こちらを真っ直ぐ見つめてくる先輩から逃げるように純太は視線を斜め下に落とす。ラブラブ新婚の先輩の家に押しかけるなんて出来ない。何よりも気まずいと純太は首を横にブンブンと振った。

 それなら他の社員に声をかけようかとスマホを取り出した先輩の手を鷹宮はグッと掴んだ。


「じゃあ、うちにおいで」

「「!?!?」」


 先輩と純太は鷹宮の口から飛び出したまさかの提案にびっくりしすぎて、あんぐりと口を開けたまま固まる。


「うるさいのが1人すでにいますし、よかったら。どうかな? 藤白くん」

「え、?! は、そんな!? ありえないです?!」

「……いや、藤白くん、ここは甘えた方がいい」


 あまりの突飛な話にパニックになっている純太の肩をポンっと叩いた先輩は冷静に考えた。

(鷹宮さんの反応から手厚く迎えられるのは確定している。ルイくんもいるし、何かされる心配もないはずだ)


「この部屋に1人残すのは不安すぎるよ」

「で、でも」

「(耳元でコッソリ)大丈夫、鷹宮さんに取って食われたりしないよ、ルイくんもいるし」

「くわ…そ、そんなことは絶対ないってわかってますよ!?」

「????」


 ヒソヒソ話す2人の会話が聞こえない鷹宮はキョトンとしたまま返事を待っている。


「じゃあ鷹宮さん、よろしくお願いします」

「わかりました、じゃあ…」

「えっ!? 本人の意見は? わぁ!」


 自分に決定権がないことに抗議するも容赦なく鷹宮にギュインっとお姫様抱っこされた純太は、せめてもの抵抗でジタバタと両手足を動かすも、弱った体でのソレはなんの効果もない。


「必要なものは買えばいいから、今日車で来ていてよかった」

「え、いいです、下ろしてください!」

「大丈夫、上着をかけてたらパジャマなのは見えないから」

「いや、問題はそこじゃなくて」

「大人しくして、ね?」

「ひゃぁ!」


 いつも通り耳元で囁かれて、熱もあるからか大ダメージを受けた純太はしおしおとへたり込む。大人しくなったのをいいことに、サッサと運び出されていく彼を見て、先輩は「……ごめん、藤白くん。取って食われるかもしれない」と内心思うも、ただただ遠い目をして静かに見送るしかなかったという。


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