番外編1:傲慢な少年の打算、あるいは誠実の履き違え
続きは本日中にー
エンドワ王国の王都。陽光が降り注ぐ昼下がり、高級菓子店のテラス席で、俺――ブラム・アレンビーは、心地よい優越感に浸りながら紅茶を口にしていた。
向かい側に座っているのは、最近知り合った商家の娘、アリスだ。彼女は、セリーヌのような「侯爵令嬢」という肩書きの重圧を感じさせない。しかし可憐で、どこか危うげな魅力を持っていた。
「……ブラム様ぁ、本当に良いのぉ? あたしの家にぃ、こんなにお金を出してくれてぇ。嬉しいけどぉ……なんだか悪いわぁ」
アリスが、大きな瞳を潤ませて私を見つめる。その「守ってあげたい」と思わせるツルツルとした無垢な表情。ああ、やはりこれこそが、若者の特権だ。
「気にするな、アリス。君の新しいアイディア…『香油の定期便』だったか? それは実に素晴らしい。君のような才能ある若者が、資金不足で夢を諦めるのは国家の損失だ。俺の小遣い程度で役に立つなら、安いものだよ」
俺は、さも当然のように微笑んだ。
実際、アンダートン侯爵家の次男である俺に与えられている自由学資金は、一般の貴族から見ればかなりの額だ。…まあ、正確に言えば、その大半は将来の妻となるセリーヌとの交際費や、彼女への贈り物代として計上されているものなのだが。
(まあ、いいだろう。セリーヌなら、きっと分かってくれる)
ふと、来週に迫ったセリーヌの十八歳の誕生日のことが頭をよぎった。
当初は、帝国から帰国したばかりの彼女のために、特注の宝飾品を贈る予定だった。カタログで見たあのエメラルドの首飾り。
だが、それを買ってしまうと、アリスへの支援が滞ってしまう。
「ブラム様ぁ? 顔色が悪いですよぉ。…もしかして無理させてますぅ?」
「いや、違うんだ。……実はね、婚約者の誕生日が近くて。少し、調整が必要だなと思ってね」
アリスが、寂しそうに視線を伏せる。
「……そうですよねぇ。セリーヌ様は侯爵家のご令嬢ですしぃ…。あたしみたいな平民の娘とはぁ、世界が違うというかぁ。あたしなんて気にせずぅ…セリーヌ様に贈ってくださぁい…」
「アリス、そんな顔をしないでくれ。君は誤解している。セリーヌは、君が思っているような、物欲にまみれた浅ましい女ではないんだ」
私は、自分の言葉に酔いしれるように続けた。
「彼女は、俺が幼い頃から一番近くで見てきた女性だ。彼女は思慮深く、そして何より、俺を愛している。俺が『今は困っている友人を助けるためにお金が必要なんだ』と誠実に説明すれば、彼女なら間違いなく、笑顔で『私の誕生日のことなんて気にしないで』と言ってくれるはずだ。それが、俺たちが築いてきた信頼関係なのだから」
そうだ。セリーヌは、俺の誠実さを何よりも尊重する。
彼女の根底にあるのは俺への献身だ。彼女は俺が困っている姿を見たくないはずだ。
だから今回の誕生日は、花束一つか、あるいは「将来もっと素晴らしいものを贈る」という約束だけで十分なのだ。
(セリーヌは病弱で、帝国の療養地で長く過ごしていた。そんな彼女に、贅沢品は必要ない…。むしろ、俺がアリスのような困っている若者を助けていると知れば、彼女は誇りに思ってくれるに違いない。うん、これは彼女にとっても、誇らしい『贈り物』になるわけだ)
自分の都合の良い解釈に、俺は深く満足した。
「決めたよ、アリス。君の事業には、予定通りの額を出資しよう。…セリーヌには、私からうまく話しておく。彼女は賢い女性だから、私の『大局的な判断』を支持してくれるはずだ」
「ブラム様ぁ…。嬉しいぃ、嬉しいですぅ! セリーヌ様は幸せ者ですねぇ」
アリスの称賛を受けながら、俺は確信していた。
セリーヌは、俺の所有物だ。俺が何をしようと、彼女は許してくれる。
彼女は、俺のこの「若く、非の打ち所のない美貌」を、何よりも愛しているのだから。
(帝国で、一体どんな風に過ごしていたのかは知らないが…。まあ、あそこの男たちは、死神のような不潔な連中ばかりだと聞く。帰国してから俺の顔を見て、彼女も改めて『若さという名の至高』を再確認したんだろう。楽しみだな、十八歳の誕生日が)
俺は、窓の外の景色を見ながら、鼻歌を歌いたくなるのを堪えた。
自分の打算が、いかに美しい献身に基づいているか。
それをセリーヌに語って聞かせる日が、待ち遠しくてならなかった。
盛大な勘違いはこうして肥大していく…
勘違いは情状酌量の余地があるかもしれないが、傲慢さには一考の余地もない
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
↓
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
なにとぞよろしくお願いいたします!




