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【作者の気が狂ったので休止中】あなたに用はありません!~どこかに素敵な老紳士は落ちていませんか?~  作者: 延々Redo


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番外編9:宝石の瞳に映る、二人の「やばい」恩人(シリル視点)

続きは本日中にー

 私の記憶の始まりは、常に「灰色」だった。


 エーヴの路地裏。湿った石畳の冷たさと、ゴミ溜めの腐敗(ふはい)した臭い。それが私の世界の全てだった。

 どこかの金持ちが、この地で遊びの末に現地の女に産ませ、そしてゴミのように捨てていった命。母すらも、生きるために私を捨てた。

 鏡など見たことはなかったが、通り過ぎる大人たちの瞳を見れば、自分が「宝石」と呼ばれて取引されるほど、(いびつ)なまでに整った顔をしていることだけは理解できた。


 その造形は、私にとって呪いだった。

 向けられるのは、優しさではない。値踏みするような視線、どろりとした劣情、あるいは「自分では手に入らないもの」を汚そうとする悪意。

 私は心を殺し、言葉を捨てた。何も見ず、何も聞かず、ただいつかこの灰色の世界から消えてしまいたい。そう願っていた。


 そんな私を、闇の中から引きずり上げたのが、ヴィクトール様だった。


 その人は、私がこれまでの人生で見てきたどの大人とも違っていた。

 死神のように陰気で、一目見て「この人は自分よりずっと深い地獄を見てきている」と直感させる、凄絶(せいぜつ)な気配。

 私という商品を前にして、彼は一度もその美しさに目を留めることはなかった。ただ私の泥まみれの手を、自分と同じ歴史を背負わされた者のように、力強く握りしめたのだ。


「……私の隣で、ただ息をしていろ。誰にもお前を汚させはしない」


 その日から私の世界に、ヴィクトール様という名の「深い影」が落ちた。

 けれど、まだ私の心は灰色のままだった。彼に懐いてはいたけれど、世界を信じる方法は分からなかった。



 それを変えたのは、あの蜂蜜色の髪をした「やばい」令嬢だ。


 初めてセリーヌ様に会ったとき、私は恐怖した。

 あんなに真っ直ぐ、そして熱烈に自分を見つめる人間は初めてだったからだ。ああ、この人もまた、私を愛玩動物か商品として見るのだ。そう思ってヴィクトール様の背後に隠れた。


 けれど、セリーヌ様が発した言葉は、私の予想を斜め上に突き抜けていた。


「……決定。決定ですわ…!」


 ……え? 何が?

 セリーヌ様の瞳は、私ではなく、私をかばうヴィクトール様の眉間に釘付けになっていた。

 私の隣で、死神のようなヴィクトール様が「熱でもあるのか?」と困惑しているのを見て、私は不意に、心の奥底でカチリと何かが噛み合う音がしたのを感じた。


(この人は、私を見ていない。……ヴィクトール様のシワを見て、よだれを垂らしそうになっている)


 その衝撃が、私の凍てついていた感情を溶かした。

 セリーヌ様は、私を「かわいそうな孤児」とも「美しい人形」とも思わなかった。ただの「シリル君」として、友達になろうと手を差し伸べてくれた。

 そして何より面白いことに、彼女は私の一番の恩人であるヴィクトール様のことを、誰よりも情熱的に、そして誰よりも変態的に敬愛していた。


「シリル君。ヴィクトール様の今日の眉間、45点よ。昨夜、公務で無理をなさった証拠だわ。なんて素晴らしい歴史の描き込みかしら!」


 12歳の彼女が、興奮気味に写生帖を広げる姿を見るたびに、私の世界は少しずつ灰色から蜂蜜色へと塗り替えられていった。

 この二人は、そろいもそろって普通ではない。

 けれど、だからこそ、私はこの二人と一緒にいたい。路地裏で覚えたどんな言葉よりも、二人が交わす会話の方が、ずっと信じられるものに思えたのだ。




◇◇◇◇◇◇




 ――それから、7年。


 私はヴィクトール様の従者として、隣に立っていた。

 セリーヌ様が帰国した後の2年間。ヴィクトール様の死神のような容貌(ようぼう)は、日々深まっていった。

 それは帝国の激動。人身売買組織の残党との戦い。そして、兄である皇帝セドリック様を支えるための過酷(かこく)な執務の証だ。


 私は、ヴィクトール様を心から尊敬している。

 けれど、最近、どうしても許せないことがあった。


「シリル、何をそんなに険しい顔をしている」


 馬車の窓からエンドワの街並みを眺めていたヴィクトール様が、私に問いかけた。


「……ヴィクトール様。不敬を承知(しょうち)で申し上げます」


「なんだ」


「……あなたは最近、『男色家』だという噂を立てられています」


 ヴィクトール様は、一瞬だけ瞬きをし、それから「ああ、あの話か」と、興味なさげに視線を戻した。


「私が未婚で、お前のような美しい従者を片時も離さないからだろう? 構わないさ。そう思わせておいた方が、(みょう)な縁談も舞い込んでこないし、私を(かつ)ぎ上げようとする勢力も牽制(けんせい)できる」


「良くありません! 私は構いませんが、あなたが、あなたの名誉が汚されるのは我慢(がまん)がなりません! 男色家などと……。本当は、セリーヌ様の写生帖に描かれた自分の顔を見て、少しだけ嬉しそうにしているくせに!」


 ヴィクトール様は口元をぴくりと動かした。


「……シリル。それを言うな。それに、セリーヌ嬢との仲を誤解されるよりは、男色家だと思われていた方が、あの子にとっても安全だろう」


 ヴィクトール様の、あまりにも不器用な「親愛」の示し方。

 私は、心の中で盛大な溜息(ためいき)をついた。

 この主人は、自分の幸福には驚くほど鈍感だ。




 エンドワのエヴァーツ侯爵邸。

 2年ぶりに再会したセリーヌ様は、私の想像を絶する「立派な枯れ専」へと進化していた。

 ヴィクトール様の顔を見た瞬間の、あの獲物を見つけた狩人のような瞳。

 そして、それを見て、嬉しさを押し殺して「久しぶりだな」と微笑む、私の主人。


(やっぱり、この二人は『やばい』人たちだ)


 けれど。

 ヴィクトール様の隣に立ち、私を「最高の従者」として認めてくれるセリーヌ様の笑顔は、エーヴの(かし)の木の下で見たあの日のまま、(まぶ)しく輝いていた。


「男色家って言われてるけど、このままで良いの?」


 私は、再会の挨拶が一段落した後、ヴィクトール様にだけ聞こえる声で再び(たず)ねた。  


「セリーヌ嬢が、それを聞いて笑ってくれるなら、それで良いさ」


 ヴィクトール様は、19歳になったセリーヌ様と言葉を交わしながら、少しだけ、本当に少しだけ、満足そうに目尻のシワを深くした。


 ああ。やっぱり、救いようがない。


 私は二人の背後を歩きながら、エンドワの冷たい空気の中に、かつてエーヴで感じた蜂蜜色の温もりを見出した。

 主人の名誉は私が守る。けれど、二人のこの「やばい」関係を見守ることも、従者である私の大事な職務なのかもしれない。


シリルとヴィクトールはそれなりに気安いです

たまに敬語外しても問題ないくらい

たぶんまだ保護者気分が抜けてない


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


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