表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【作者の気が狂ったので休止中】あなたに用はありません!~どこかに素敵な老紳士は落ちていませんか?~  作者: 延々Redo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

第19話:泥の牙と、気高き瞳

続きは明日の昼頃にー

 エーヴの秋は、美しい黄金色の輝きとは裏腹(うらはら)に、深く冷たい影をその土の下に隠し持っている。

 温暖な気候と豊かな温泉を求めて、大陸中から富裕層が集まるこの地には、その光に群がる羽虫のような悪意もまた、絶えず()き出し続けていた。


 その筆頭が「ベルショー商会」である。

 表向きは高級日用品を別荘地へと届ける誠実な商人。だがその真の顔は、療養地で孤立した身寄りのない子供や、護衛の薄い令嬢を狙い、影の市場へ売り飛ばす人身売買の元締め。


 そしてその牙は、ヴィクトール様が公務のため、別荘を留守にしたある日の午後に襲いかかってきた。


「――お嬢様、落ち着いて聞いてください。別荘の周囲に、(みょう)な一団がたむろしています」


 ドミニクが、サンルームに飛び込んできた。その顔には、いつもの軽口を封印(ふういん)した、騎士としての峻烈しゅんれつな緊張が走っている。

 私はシリル君に帝国の文字を教えていた手を止め、窓の外に目を向けた。


「妙な一団……? ベルショー商会の配達員ではなくて?」


「服装こそそうですが、目つきが違います。奴らは『荷物』ではなく、獲物を値踏(ねぶ)みするようにこの館を見ている。バーバラ、お嬢様とシリルを奥の隠し部屋へ! 俺が時間を稼ぐ!」


「ドミニク、気をつけて!」


 バーバラが私の手を引き、シリル君を抱き寄せようとしたその時。

 (すさ)まじい破壊音と共に、一階の正面玄関が()(やぶ)られた。


「ひ……っ!」


 シリル君が私の服の(すそ)を強く握りしめる。彼の瞳には、路地裏で幾度(いくど)となく味わわされたであろう、底知れぬ恐怖が再燃していた。


「シリル君、大丈夫よ。……ドミニク! バーバラ!」


 だが、事態は私たちの予想を(はる)かに超える速さで悪化した。

 玄関から乱入してきたのは、商人の皮を被った屈強(くっきょう)荒事師(あらごとし)たちだけではない。窓を割り、テラスから侵入してきたのは、明らかに「人を殺すこと」に慣れた専門の連中だった。


「見つけたぜ。……『路地裏の宝石』と、エンドワの侯爵令嬢だ」


 現れたのは顔に大きな火傷(やけど)(あと)を持つ、下劣(げれつ)な笑みを浮かべた男。ベルショー商会の実行部隊長だろう。その男の背後からは、次々と武装した男たちが部屋を包囲していく。


「お嬢様に指一本触れさせないわ!」


 バーバラが隠し持っていた短剣を()き放つが、多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)。ドミニクも複数の敵と交戦している音が聞こえ、こちらを助けに来る余裕(よゆう)はない。


無駄(むだ)だ、小娘。お前らの守護神ヴィクトールは、今頃(いまごろ)別の場所で起きた『騒動(そうどう)』の対処(たいしょ)に追われている。ここには助けは来ない。さあ、大人しく……」


「……汚いわ」


 私が発した一言に、火傷の男が眉をひそめた。


「ああん? 何が汚いって?」


「あなたのその、薄汚(うすよご)れた野心(やしん)そのものの顔ですわ。……ケホッ、ゲホゲホッ!」


 私は激しく咳き込みながらも、シリル君を背中に隠し、男を真っ向から見据えた。肺が痛い。足が震える。

 けれど、私の内側にある審美眼が、目の前の男に対して燃え盛る炎のごとき拒絶反応を示していた。


「な、んだと?」


「私を誰だと思っているの。エヴァーツ侯爵家が長女、セリーヌ・エヴァーツよ。私はこれまで、多くの『高潔なる魂』が刻んだ、美しい歴史を見てきましたわ。それに比べて、あなたは何!? その火傷の跡も、ただの不注意で負ったような、浅ましい暴力の残骸(ざんがい)。眉間のシワも、他人の不幸せを願うことしか知らない、歴史の浅い悪党(あくとう)の顔……。見るに(こた)えなくてよ!!」


 男の顔が怒りで赤黒く染まる。


「このガキ…! 売り物だからって、五体満足でいられると思うなよ!」


 男が手を伸ばそうとした瞬間、バーバラが体当たりを食らわせ、私とシリル君を別廊下へと押し出した。


「お嬢様、逃げて! 裏のボート小屋へ!」


「バーバラ!」


 私はシリル君の手を引き、懸命(けんめい)に走った。

 肺が焼ける。冷たい秋の空気が、刃物のように気管を(けず)る。

 けれど背後から(せま)る足音と、シリル君の震える手の感触が、私に限界を超えた力を与えていた。


 私たちは別荘を抜け出し、霧の立ち込める森の奥へと逃げ込んだ。


「……ハァ、ハァ…。ケホッ…! 大丈夫……大丈夫よ、シリル君」


 木の根に足を取られ、泥にまみれながらも、私は歩みを止めなかった。

 シリル君は無言で私の手を(にぎ)り返し、時折(ときおり)、私の咳を心配するように見つめてくる。


「シリル君……、私ね。ヴィクトール様に教わったの。…自分自身の欲望に、忠実(ちゅうじつ)になれって。……今の私の欲望はね、あなたをあんな、美学も知らないような下劣(げれつ)な連中に渡さないことよ!」


 私は、自分自身の言葉に鼓舞(こぶ)されるのを感じた。

 そうだ。私は美しいものを愛で、守り、記録する者。

 あんな、人の歴史を(うば)い、売り飛ばすような連中の顔なんて、私のスケッチブックの一頁も汚させるわけにはいかない!


 しかし、逃亡者の足は遅い。

 背後の(しげ)みが大きく揺れ、先ほどの火傷の男たちが再び姿を現した。


「追い詰めたぞ。よく走るネズミどもだ。特にお前、侯爵令嬢。その気の強さは、マニアには(たま)らない値がつくぜ」


 男たちが、獲物を囲い込むように距離を()める。

 私はシリル君を背後にかばい、落ちていた木の枝を拾って構えた。


「来なさい、悪党。…あなたが私を捕まえたとしても、私の瞳はあなたを『人間』とは認めない。あなたはただの、腐りかけの肉塊として私の記憶に刻まれるだけよ。あなたになんか用は無いわ!」


()えてろ、ガキが!」


 男が飛びかかってこようとした、その時。


 ――霧の向こうから、一筋(ひとすじ)閃光(せんこう)が走った。


「…………え?」


 火傷の男の足元の土が、(すさ)まじい風圧と共に(はじ)け飛んだ。

 静寂(せいじゃく)が森を支配する。

 重く、冷たく、そして全てを平伏させるような重圧が、霧の奥からあふれ出してきた。


「――私の庭で、随分(ずいぶん)(にぎ)やかなことをしているな」


 その声を聞いた瞬間、私の全身の力が抜けた。

 シリル君が「…っ!」と短い息を吐き、私の背中から身を乗り出す。


 霧を切り裂いて現れたのは、黒の外套(がいとう)をなびかせ、瞳に静かなる激怒(げきど)を宿したヴィクトール様だった。

 その背後には、抜き放たれた剣を構えたドミニクと、帝国の精鋭騎士たちが控えている。


 ヴィクトール様の顔は、今までのどの瞬間よりも深く鋭い、「不浄を許さぬ統治者」のものだった。


(ああ……。ああ、なんて…!)


 私は地面に膝をつきながらも、その姿から目を離せなかった。

 怒りの中に宿る気高き正義。

 弱き者を守るために、自らを(けず)って生きる大人の、究極の美。


「ヴィクトール……様…」


「遅くなって済まない、セリーヌ嬢。よく頑張った。君のその気高さが、シリルの心を守り抜いたようだ」


 ヴィクトール様は私に歩み寄り、泥に汚れた私の手を、大きな、そして温かい手で包み込んだ。

 その瞬間、私は確信した。


 私が大人になったとき、隣にいてほしいのは。

 あんな、何も持たず、何も守らず、ただ自分だけを愛でるような若者ブラムではない。

 この、汚れた泥の中にいてもなお、決してその輝きを失わない、深い歴史を背負った「大人」なのだということを。


「……さあ、掃除の時間だ」


 ヴィクトール様が冷徹な視線をベルショーの連中に向ける。




 日記を更新しましょう(12歳のセリーヌの日記より)。


『○月×日。霧の森にて。

 今日、私は「悪」というものの本当の(みにく)さを知った。

 それは、シワがないことでも、老いていることでもない。

 他人の歴史を敬わず、ただ消費しようとする、その浅ましさそのものなのだ。

 そして、私は知った。

 守りたいもののために、鬼のような顔で戦うヴィクトール様が、どんな黄金よりも美しく輝くことを。

 私は決めた。……いつか、あの方に相応(ふさ)しい、歴史ある女性になってみせると。

(追伸:ドミニクに助けられた瞬間、彼が「お嬢様、顔が変態に戻っています」と言ったけれど、私は聞こえないフリをしましたわ)』


今回のポイント

>>>顔が変態に戻っています<<<

あまりにもあんまりだぁ


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!


なにとぞよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ