番外編7:エヴァーツ侯爵の戦い、王都の包囲網(ベンジャミン視点)
続きは数時間後にー
「――捕らえろ。抵抗する者は容赦しなくて良い。一人残らずだ!」
深夜の王都。その静寂を切り裂くように、私の怒号が響いた。
エヴァーツ侯爵家が率いる精鋭部隊が、次々と王都の小路へとなだれ込んでいく。狙うは、近衛騎士団の中に潜んでいた反逆者の協力者たちだ。
私がセリーヌとキャサリンを強引に領地へ帰したのは、決して私の親バカが暴走したからだけではない(いや、八割方はそうだったが)。
実は、王宮内部で不穏な空気が流れていることを、私はジャクソン陛下より内密に伝えられていたのだ。
「反乱の予兆はある。だが、首謀者が絞り込めないのだ、ベンジャミン」
数週間前、陛下は執務室でそう仰った。
犯人がわからぬ以上、うかつには動けない。だが、有力貴族の娘……特に、私の娘であるセリーヌが王都にいれば、人質として狙われるのは火を見るより明らかだった。
だからこそ、私は彼女たちを安全な北の領地へと逃がした。…まさか、その逃げた先でセリーヌが「反乱の主犯」を直接釣り上げ、挙句の果てには「バリッシュ王国の亡命貴族」まで拾い上げてくるとは、神ですら予想していなかっただろうが。
「侯爵様! 第四区の武器庫を占拠していた一団を制圧いたしました。リチャード副団長の刻印が入ったバリッシュ製の武器が大量に発見されました!」
「よし、証拠品としてすべて押収しろ。……ふぅ、ようやく終わりが見えてきたな」
私は眉間に寄ったシワを指でもみほぐす。
セリーヌが見れば「躍動感が失われましたわ!」と怒りそうだが、今はそれどころではない。
セリーヌから肖像画の暗号がエドモンド経由で届いた時、思わず私は感心した。
まさかあのアレンビー家の隠居老人と、娘の枯れ専趣味がこれほど実用的な情報網として機能するとは。
スザンナ・マロリーが国境の守備隊を迅速に動かせたのも、私が事前に「有事の際はマロリー家の娘の指示に従え」と、陛下を通じて軍に密命を下していたからに他ならない。
すべては、私の娘を……いや、この国を守るために。
◇◇◇◇◇◇
翌朝。反乱軍の鎮圧を終えた私は、王宮の最奥にある陛下の私室へと呼び出された。
「ベンジャミン、大儀であった。おかげで王都は守られた。リチャードが捕縛された今、バリッシュの野望を一旦はくじいたと言って良いだろう」
ジャクソン陛下は、安堵の表情を浮かべながら椅子に深く腰掛ける。
「ですが、陛下。バリッシュの国王カールハインツは依然として健在です。リチャードという駒を失った彼が、次はどのような強硬手段に出るか分かりません」
「うむ、そこでだ。私は南のファヴァロ帝国との軍事協力を本格化させようと考えている」
ファヴァロ帝国。
セリーヌが五年もの間、療養生活を送っていた大陸最大の軍事国家だ。あそこが味方につけば、バリッシュなど一たまりもないだろう。
「帝国側も、この提案には非常に乗り気でな。近々、具体的な軍事協定の調整のために、帝国の皇帝の弟君が、親善大使としてこのエンドワを訪れることになった」
「それは心強い。して、その御方はどなたで?」
「皇帝の弟、ヴィクトール・フォン・ファヴァロ公爵だ」
私はその名を聞いて、かすかな記憶をたどる。
確か、帝国でも一、二を争う実力者であると聞いている。
「陛下、その公爵をお迎えするにあたって、私に何かご指示が?」
「ああ。公爵たっての希望でな。『エンドワへ行く際は、ぜひともエヴァーツ侯爵の令嬢、セリーヌ嬢を同席させてほしい』と名指しで要望があったのだ」
「…………は?」
私は、自分の耳を疑った。
なぜだ。なぜ、帝国の権力者が我が家の、シワを愛でるだけの娘を名指ししてくるのだ。
「陛下! 娘が何をしたというのです!? 帝国での療養中、不敬な態度でも取ったと!? それとも、まさか皇帝の城の壁のひび割れを写生して怒らせたのですか!?」
「いや、違うぞベンジャミン。どうやら、二人は旧知の仲らしい。公爵は『彼女と語りたいことがある』と仰っているそうだ。ベンジャミン、お前、娘が帝国でどんな生活をしていたか、詳しく聞いているか?」
「い、いえ。医師の指導の下、静養しているとばかり…」
私は冷や汗が止まらなくなった。
セリーヌ。お前は帝国で、一体何を拾っていたんだ。
「まあ、とにかく。近々、公爵がエンドワへ入る。その時はセリーヌ嬢を連れてきてくれ。これは勅命だぞ、ベンジャミン」
「む、娘がなんで…!!」
私は、崩れ落ちそうになる膝を必死に支えながら、陛下の部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇
屋敷に戻ると、妻のリネットが、珍しく楽しげにセリーヌからの手紙を読んでいた。
「あら、あなた。お帰りなさい。セリーヌから手紙が届いていますわよ。領地で素敵な『拾い物』をしたんですって。ローデリヒという、とても渋い従者だそうですわ」
「リネット…! 今は拾い物の話をしている場合じゃないんだ! 陛下が、陛下がセリーヌを王都へ呼び戻せと仰っている!」
「あら、それは良いニュースではありませんか。あの子も、いつまでも領地に引きこもっているわけにはいかないでしょう?」
「違うんだ! 帝国のヴィクトール公爵という男が、セリーヌを指名しているんだ! 旧知の仲だと言って! ああ、嫌な予感しかしない! 帝国での五年間、あの子は一体、どれほどの人間を誑し込んでいたんだ!」
私は、領地の方角を向いて叫んだ。
セリーヌ。
お前、まさか帝国そのものを自分の「コレクション(写生帖)」に収めていたわけじゃないだろうな。
リチャードの反乱を鎮めたというのに、私の眉間のシワは、さらに深くなる一方だった。
「…リネット、至急、セリーヌに手紙を書いてくれ。『至急、王都へ戻れ。ただし、至高のシワを連れてくるのは最小限にしろ』とな!」
「ふふ、無茶を仰いますわね、あなた」
リネットの朗らかな笑い声が響く中、私は鏡の前で、さらに後退しそうな生え際を必死に押さえつけるのであった。
ざっくり地理の整理ー
絵心がないので文字にて失礼
北の国 山岳地帯
海 エンドワ バリッシュ
( 帝国 )
ざっくりこんな感じ
エンドワはちっせぇです
王都―別の領地―バリッシュ
セリーヌの家
帝国 )
みたいな?
エンドワが(比較して)ミニマムなので、セリーヌ家の領地もそんなに広くないです
辺境伯はいないです
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