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あなたに用はありません!~どこかに素敵な老紳士は落ちていませんか?~  作者: 延々Redo


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第12話:夜の社交、あるいは情報戦

続きは数時間後にー

 その日の夜。エヴァーツ侯爵邸の食堂には、不自然なほどの静寂と、張り詰めた緊張感が漂っていた。

 お父様はまだ帰省しておらず、食卓を囲むのは私とキャサリン、そして招かれざる客であるリチャード・エンドワ様だ。


 給仕を務めるのはバーバラ。彼女はいつもの無表情を貫いているが、リチャード様の背後を通る際、微かに鼻を鳴らしたのを私は見逃さなかった。きっと、彼のまとう「偽りの英雄の香り」に吐き気を感じているに違いない。


「…素晴らしい料理だ。エヴァーツ領の豊かさが、この一皿からも伝わってくるよ」


 リチャード様が、優雅な手つきでナイフを動かす。その動作一つひとつが洗練されており、一見すれば非の打ち所がない。だが私は食事を摂るふりをして、彼の手元をじっと観察していた。


「リチャード様、恐縮ですわ。ところで……先ほどから拝見しておりましたが、リチャード様のその左手の甲。以前にお見かけした時よりも、随分と新しい傷跡が増えていらっしゃるようですけれど?」


 私の言葉に、リチャード様のナイフがわずかに止まった。


「ああ、これかい? 近衛の訓練は過酷でね。不名誉なことだが、部下を指導する際に少しばかり掠ったのだよ」


「まあ、部下思いの副団長様ですこと。…ですが、不思議ですわね。その傷口の形、そしてわずかに残る金属の錆びたような質感。…我が国の近衛が標準装備している『エンドワ鋼』の剣では、そのようなえぐれたような傷はつかないはずですわ」


 私はワイングラスを傾けながら、追い打ちをかけるように微笑んだ。


「その、皮膚を引き裂くような独特の返り傷…。西のバリッシュ王国で多用されている『鋸刃のこぎりば』の特徴によく似ておりますの。帝国での療養中、バリッシュの傭兵たちの武器を見る機会がありましたから、よく覚えておりますわ」


「…………」


 リチャード様の表情が、一瞬で無に帰した。


 そう、それ。それよ。

 仮面が剥がれ落ちる直前の、感情の死んだ顔。


「セリーヌ、君は……本当に、細かいところまでよく見ているのだね。まるで、私の肌の下まで透かそうとしているようだ」


「ふふ、職業病のようなものですわ。私、歴史の重みを感じさせるものが大好きなんですもの。…でも、リチャード様。新しい傷に頼って歴史を偽造するのは、あまりお勧めしませんわ。それはただの『自傷』であって、積み重ねられた『歴史』ではありませんもの」


 リチャード様は何も答えず、残りの肉を淡々と口に運んだ。

 彼の眉間には、昼間よりもさらに深く、濁ったシワが刻まれている。


(30点……いえ、今の不気味な沈黙を加味して、35点。やはり、合格点には程遠いわね)




◇◇◇◇◇◇




 晩餐会が終わり、リチャード様が客室へと引き上げた後。

 私は自室で、バーバラからの報告を待っていた。


 夜も更け、館が静まり返った頃。音もなく扉が開き、夜着に着替えたバーバラが滑り込んできた。彼女の瞳には、獲物を追い詰めた猟犬のような冷徹な光が宿っている。


「お嬢様。ネズミが動きましたわ」


「あら、意外と早かったわね。リチャード様、よほど焦っていらっしゃるのかしら」


「ドミニクが庭の警備を強化したため、彼は窓からではなく、屋根裏の通気口を伝って、外に待機させていた部下へ密信を届けようとしたようです。……幸い、ドミニクがその部下を音もなく『処理』いたしましたわ」


 バーバラが差し出したのは、小さな筒に入れられた羊皮紙だった。

 中には、バリッシュ語の暗号でびっしりと書き込まれた指令。


「……内容は?」


「『エヴァーツの娘に感づかれた。計画を早める。ローデリヒの捜索は継続するが、最悪の場合、この屋敷ごと焼き払う用意をせよ』…とのことです」


「屋敷ごと焼き払う? まあ。私のコレクション(写生帖)に、灰を被せようというのかしら」


 私は、こみ上げる怒りを抑え、冷たい笑みを浮かべた。


 リチャード様。

 あなたは、私があなたの野心に気づいた理由を、賢い令嬢の勘だとでも思っているのでしょうね。


 違うわ。あなたがバリッシュの武器を使い、自らの体に無理やり「歴史」を刻もうとした、その浅ましさ。

 傷跡の形一つから、どの国の、どの工房の剣でその傷を作ったのかまで見抜ける私の「フェチ」を、あなたは甘く見すぎたのよ。


「バーバラ。この密信、元通りに戻して。…ただし、最後の一行だけ書き換えて差し上げましょう」


「なんと、お書きになりますか?」


「『エヴァーツの娘は、完全に私のとりこだ。明日、彼女を伴って領地の視察へ向かう。計画は予定通り遂行せよ』…と。誘い出してあげましょう。彼が最も得意とする舞台へね」


 私は、ローデリヒ様が潜んでいる地下室の方角を想った。


 あの方のシワは、本物の苦悩が刻んだ宝物。

 それを守るためなら、私はどんな悪女にだってなって差し上げる。



 リチャード様。

 明日の朝、あなたが私の前に立つ時、どんな偽りの愛を囁いてくれるのかしら。

 その時のあなたの表情筋の動き、1ミリの狂いもなく記録して差し上げますわね。




 日記を更新しましょう。


『深夜の観察記録:リチャード・エンドワ(35)。

 隠蔽工作の仕方が、近衛にしては雑。

 武器へのこだわりが無く、傷跡の形状に統一性が欠如している。

 彼は、自分の体をキャンバスだとでも思っているのかしら?

 本物の歴史は、演出では作れないということを、明日、その身をもって知ることになるでしょう。

(追記:ドミニクに、明日の「視察」の護衛を精鋭で固めるよう指示。バーバラには、暗号の上書きを任せた)』


愛が…愛が重いッ!

キャサリンは内心びびってます


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


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