表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【作者の気が狂ったので休止中】あなたに用はありません!~どこかに素敵な老紳士は落ちていませんか?~  作者: 延々Redo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/34

第9話:本当に落ちているとは思わないじゃない

続きは本日中にー

 王都を出発してから、馬車に揺られること四日。前後を固める騎馬護衛の(ひづめ)の音と、重い荷馬車が軋む音。それらが混じり合う我が家の馬車列が、街道を順調に進む。

 街道の両脇に広がる景色は、石造りの街並みから、次第に深い緑の森と広大な湿地帯へと姿を変えていた。


 「お姉様、本当にお父様も極端(きょくたん)ですわね。病気療養の名目だなんて、お姉様は今、人生で一番と言っていいほどお元気なのに」


 向かい合わせに座る妹のキャサリンが、(あき)れたように窓の外を眺めながら言った。彼女の茶髪が、馬車の揺れに合わせて軽やかに()ねる。


「いいじゃない、キャサリン。お父様が心配してくださっているのですもの。それに王都の空気は少し…若すぎて息が詰まりますわ。領地に戻って、ゆっくりと時の流れを感じるのも贅沢なことですわよ」


 私は、膝の上に置いたスケッチブックを愛おしそうに()でた。そこには王都を発つ直前に、門番の老騎士から採取スケッチした「甲冑を着込む際の姿」が、完璧な筆致(ひっち)で収められている。


「付いてきてくれて嬉しいけれど、キャサリンは良かったの? 王都を離れて。あちらには、あなたを(ねら)っている年若い令息もたくさんいたでしょう?」


「これと言って良い人がいないんですよね。それに私が有力貴族と結婚して、うちの権力がこれ以上強くなると、あちこちから目をつけられそうで怖いですわ。お父様は陛下と近すぎて、ただでさえ周囲から注視(ちゅうし)されていますもの」


 キャサリンは、いかにも現実的な冷めた口調で続ける。


「子爵や男爵、あるいは平民の方でも良いかなとは思うんですけれど。やっぱり、生きてきた世界が違いすぎて、いまいちピンと来ないというか」


「難しいわねぇ。恋愛と結婚は別物と言うけれど、あなたならきっと、もっとシンプルに『この人!』と思える相手が見つかるわよ」


「……お姉様に言われると、説得力があるような、無いような。とにかく、お姉様がリチャード様と婚約なんてことになったら、とても、とーっても面倒なことになるのは確かです。王位継承権はないとはいえ、あの方は王家の血筋。後ろ盾にうちを指名した時点で、政治的な意図を感じずにはいられませんわ」


「うわ、絶対にお断りしなきゃ。私、政治の道具になるのは構わないけれど、中身の薄い美青年の横で、一生をシワ不足で過ごすなんて耐えられませんもの」


 キャサリンの言葉に頷くと、厚手のカーテンの隙間(すきま)から、並走する護衛騎士の凛々しい横顔が見えた。エヴァーツ侯爵家の私兵は精鋭揃いだ。王家がこの武力を味方に付けたがるのも無理はない。


 そんな会話を交わしながら、私たちは領地の境界線近くにある湿地帯へと差し掛かった。

 ふと私は窓の外に広がる、背の高い植物の群生に目を止めた。


「あら。ドミニク、少しあそこで止めてくださる?」


 伝声管を通じて指示を出すと、先頭を行く護衛騎士が手を挙げ、数台の馬車が一斉に速度を落とした。

 停車した馬車の扉を開けたのは、今回の旅の護衛責任者を務めるドミニク・ベンサムだ。


「お嬢様、急にどうされましたか? まさか、また道端の石のひび割れでも観察されるのですか?」


 ドミニクが引きつった笑顔で私を見る。彼は私が帝国で療養していた頃からの付き合いで、私の「枯れ専」としての変遷(へんせん)を最も近くで見守ってきた、ある意味での被害者だ。


 彼の後ろでは、突然の停車に警戒を強めた数人の騎士たちが、周囲の茂みに鋭い視線を走らせていた。


「失礼ね、ドミニク。あそこを見て。ガマが綺麗に自生しているでしょう? あの花粉は、我が領の名産品である傷薬の原料になるのよ。今年の育ち具合を、一目確認しておきたいわ」


「ガマ、ですか…。確かに、お嬢様は領地の経営にも熱心ですからね。ですが、このあたりは湿地が深いですから、足元には気をつけてくださいよ」


 ドミニクの制止を背に、私は侍女のバーバラの手を借りて馬車を降りた。バーバラはドミニクの妻であり、私とは「枯れ専」の同志でもある。


「お嬢様、あちらの方に立派な()が見えますわね。…あら、でも、あのあたりのガマ、不自然に荒らされていませんこと?」


 バーバラが指差す先。確かに、本来であれば整然(せいぜん)と並んでいるはずのガマの(くき)が、なぎ倒され、手前の泥が大きく(えぐ)れたような跡がある。


「本当ね。誰かが湿地を横切ったみたい。…ドミニク、ここを抜ける人なんて居るかしら?」


 ドミニクが険しい表情で足跡を確認した。


「いえ、まず居ません。ここは底が深いうえに、足を取られたら最後だ。もしここを抜けたというなら、よほどの命知らずか……あるいは、街道を通れない事情がある逃亡者でしょう」


「真っ直ぐ進んだ跡があるわ。……ドミニク、馬車でこの湿地を迂回(うかい)して、先回りしてみましょう。もし誰かが行き倒れているなら、放っておけないわ」


「お嬢様、危険ですよ! 追っ手がいる可能性も…」


「大丈夫よ。私たちには、王都一の騎士と名高いドミニク様がついているのですもの」


 私の(おだてを含んだ)言葉に、ドミニクは「…はぁ、承知しました」と肩を落とし、馬車を走らせた。


 湿地帯を大きく半周し、反対側のなだらかな斜面へと回り込む。

 すると、そこには。


「……いたわ」


 私は馬車が止まるのも待たずに、外へ飛び出した。

 泥まみれになり、ボロボロの衣服をまとって横たわっている一人の男性。


 ドミニクが警戒しながら先に近づき、首筋に指を当てた。


「……生きています。ひどい衰弱だ。…お嬢様、あまり近づかないでください。素性(すじょう)が分かりません」


 だが、私の耳にはドミニクの声など届いていなかった。


「……っ、バーバラ。見て…見てご覧なさいな」


「はい、お嬢様。見えております」


 私たちの視線の先。

 泥と汚れに(まみ)れているが、その下にあるのは、明らかに高貴な血筋を感じさせる面立ち。

 推定、四十代後半。

 逃亡の果てか頬はそげ、無精髭(ぶしょうひげ)が適度に生え、苦悶(くもん)の色を浮かべて微かに開かれた唇。そして死線を潜り抜けてきた者にしか宿らない、凄絶(せいぜつ)なまでの枯れのオーラ。


「良い…。なんて、なんて素晴らしいの…!」


 私は、汚れを気にせずにその男性の側へ膝をついた。

 泥水に()れて肌に張り付いたシャツの質感。その下から(のぞ)く、年月を感じさせる太い血管。そして、意識を失ってなお眉間に深く刻まれた、苦難の歴史を物語る「(みぞ)」!


「どこかに素敵な老紳士は落ちていませんかとは思ったけれど。本当に、こんな至高の老紳士が落ちているなんて思いもしなかったわ…!」


「お、お嬢様!? (ひろ)う気満々じゃないですか! どこの誰かも分からないんですよ!?」


 ドミニクの絶叫。けれど、その隣でバーバラが静かに、情熱を秘めた瞳で頷いた。


「ドミニク、何を言っているの。お嬢様が拾うと仰っているのです。それに…見て。この方のこの、泥にまみれながらも失われない気高さ。助けない理由がどこにありますか?」


「お前まで何を言ってるんだよ! バーバラ!」


「ドミニク、さっさとこの方を馬車へ運んで。屋敷へ連れて帰るわよ。エヴァーツ家の名に()けて、この方の『歴史』を絶やさせてはなりませんわ!」


「お嬢様、せめて救護用の予備馬車に! 旦那様にバレたら俺の首が飛びます!」


「ダメよ、私の目の届くところで管理(鑑賞)しなくては。さあ、バーバラ。タオルと清潔なシーツの準備を」


「承知いたしました、お嬢様!」


 呆然とするドミニクを尻目に、私は、自分のハンカチで男性の額の泥をそっと(ぬぐ)った。

 そこには、私がこれまで見てきたどのシワとも違う、異国の風と戦火を潜り抜けてきたような、重厚な輝きがあった。


 リチャード様? 35歳?

 ……ふふ。

 この「拾得物(しゅうとくぶつ)」に比べれば、王都の英雄など、まだインクの乾いていない()り立てのパンフレットのようなものですわ。


 こうして私の領地生活は、予想だにしない大物の捕獲から始まったのである。




 日記を更新しましょう。


『第二章・開幕。

 本日の大収穫:湿地帯にて、推定48歳の至高の老紳士を保護。

 泥まみれの苦悶顔、満点。

 生還(せいかん)の予感に、私のペン先は(すで)に震えております。

 どうかゆっくりと、私にその人生を語ってくださいませ。

(注:ドミニクが白目を向いているが、無視することにする)』


サブタイトル回収~~~

セリーヌからドミニクへの感情は信頼6:甘え4です


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!


なにとぞよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ