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あなたに用はありません!~どこかに素敵な老紳士は落ちていませんか?~  作者: 延々Redo


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13/25

番外編2:王太子の休息、あるいは幸福な均衡

続きは本日中にー


こちらは短編「結婚式直前に婚約破棄!?国家の存亡をかけて王太子殿下を篭絡します!」の登場人物が出てきます

先に読んでからの方がお楽しみいただけますが、未読でも問題ないかと

~~以下、短編の簡単なあらすじ~~

王太子「すまないが、ホモ以外帰ってくれないか!」

王太子妃「でしたら両刀にして差し上げます」

王妃「いけーーーー!!やれーーーーーー!!」

 エンドワ王宮の奥深く、陽光が柔らかに降り注ぐ後宮の私庭。

 そこには、一国の未来を(にな)う王太子夫妻の、実質的には「王国一平和」と言っても過言(かごん)ではない、昼下がりのティータイムがあった。


「――ジャスパー様。また手が止まっていますわよ。このお菓子、冷めないうちに召し上がってくださいな」


 王太子妃ノエルは、可憐(かれん)な手つきで紅茶を()れ直し、夫であるジャスパー・エンドワに向かって微笑んだ。その微笑みは聖母のように温かい。しかし瞳の奥には、かつて深夜の寝室で夫を力ずくでベッドへ押し倒し、「両刀にして差し上げます」と宣言した時と同じ、はがねのような意志が宿っている。


「ああ、すまない、ノエル。…君が淹れてくれた紅茶は、いつも私の心を落ち着かせてくれるよ」


 ジャスパーは、眩いばかりの金髪を揺らし、端正(たんせい)な顔立ちをほころばせた。

 かつては「自分は男しか愛せないのではないか」と悩み、挙式直前に婚約破棄を叫んだ悲劇の美青年は、今や妻ノエルという「深い海」に溺れる幸福を噛み締める一人の男へと変貌していた。


「それにしても、ノエル。君は最近、ますますたくましく…いや、美しくなったね。昨日の乗馬の際も、君の背筋のしなやかさには、思わず見惚れてしまったよ」


「まあ。それは、ジャスパー様が求める『スレンダーな体型』に、私が少しでも近づこうと努力しているからかしら?」


 ノエルが悪戯っぽく小首を傾げると、ジャスパーは微かに頬を染めた。


「そ、それは…。いや、今の私は、君であれば体型など…いや、もちろんスレンダーな君も素晴らしいが、そうでない君も……その、つまりだな…」


 うろたえる夫の姿を見て、ノエルはくすくすと笑い声を上げた。

 彼女は知っている。この夫が今でも時折、学園時代の友人であるヒルデ(黒髪黒目のスレンダー女子)や、あるいは美しい少年の従者を見かけるたびに、その「嗜好(しこう)」に瞳を輝かせていることを。

 けれど、彼女はそれを禁じはしなかった。


「ジャスパー様。隠さなくてよろしいのです。あなたのその『多層的な愛(両刀)』こそが、私たちが築き上げた新しい歴史なのですから」


「ノエル……。君は本当に、(ふところ)が深い。……私は時折、自分が分からなくなることがある。かつて私が愛した『中性的な美』と、今、目の前にいる君という『絶対的な愛』。これらは、私の中でどう共存しているのだろうか」


「共存しているのではなく、私という『(じく)』があるからこそ、他の美しさも楽しめるようになった…そう考えればよろしいのではなくて?」


 ノエルは、ジャスパーの隣に腰掛け、その細く白い指に自らの指を絡めた。


「……ジャスパー様。そういえば、学園の方で最近、エヴァーツ侯爵令嬢のセリーヌ様が、かなり個性的な活動をなさっていると聞きましたわ。なんでも、歴史ある教師たちの『シワ』を追いかけて、写生に没頭していらっしゃるとか」


「……ああ、セリーヌ嬢か。ベンジャミン侯爵が先日、頭を抱えて相談に来ていたよ。『娘が、教頭の眉間のシワに点数を付けている。これは不敬に当たらないだろうか』とね」


 ジャスパーは困ったように笑った。


「彼女の感性は、確かに独特だ。だが、私はどこかで彼女に親近感を覚えるのだよ。…私たちが『愛の形』を模索しているように、彼女もまた、世間一般の美学とは違う、自分だけの『真実』を探しているのではないかな」


「まあ。……セリーヌ様が探していらっしゃるのは、『究極の老紳士』ですけれど」


「ははは。老い、か……。私たちが40年、50年と時を重ねた時、私たちの顔にもセリーヌ嬢が喜ぶような『歴史』が刻まれているのだろうか」


 ジャスパーは、ノエルの手を握り返し、その美しい横顔を熱烈(ねつれつ)に見つめた。


「ノエル。私はね、君と二人で刻むなら、どんなシワも恐ろしいとは思わない。むしろ、君への愛ゆえに増えていく笑いジワなら、いくらでも歓迎したいと思っているよ」


「……ジャスパー様」


 ノエルの頬が、今度は本物の羞恥で赤く染まった。


 この甘い空気。

 挙式直前の「地獄のような婚約破棄騒動」を経て、彼らが手に入れたのは、単なる王族としての義務ではない。互いの「歪さ」すらも愛おしむ、深い、深い信頼関係であった。



「――お熱いですわね、お二人とも」


 庭園の入り口に、凛とした、けれどどこか呆れたような声が響いた。

 そこに立っていたのは、エレオノーラ王妃であった。


「母上! い、いつからそこに…」


「あら、ジャスパー。『どんなシワも恐ろしくない』という名台詞が聞こえたあたりからかしら。…ふふ、ノエルさん。本当にお疲れ様。この馬鹿息子が、ようやく一人前の『夫』の顔になってきたのは、すべてあなたのおかげね」


 エレオノーラ様は優雅に近づき、ノエルの肩を抱き寄せた。


「王家の血が絶えるのではないかと、胃に穴が開く思いでいた日々が、今では嘘のようだわ。…ジャスパー。あなたの『嗜好』がどちらに向いていても、今のあなたがノエルさんをこれほどまでに慈しんでいるのなら、私はもう、何も言わないわ」


「母上……。ありがとうございます。…私は、幸せです。……自らの不完全さを、この手で抱きしめてくれる人が隣にいる。これ以上の幸福はありません」


 ジャスパーの瞳には、かつての迷える少年の影はなかった。

 そこにあるのは、自らの宿命と欲望、そして愛をすべて受け入れた、一人の統治者候補としての輝き。


 ノエルは、夫と義母のやり取りを見守りながら、そっと胸を撫で下ろした。


(ああ、良かったわ。あの時、力任せにこの人を押し倒して正解でしたわ)


 彼女の心の中にある「武闘派の決意」は、平和な日常の中に静かに隠されていた。しかしそれはいつの日か、他国の脅威や国内の不穏が牙を剥いた時、再び力強く発揮されることになるのだろう。


 空は高く、蜂蜜色の陽光がエンドワの庭を照らしている。


 学園でシワを追いかける17歳の少女が、いつか自分たちの「歴史」を描き留めに来るその日まで。

 彼らはこの平和な庭で、ゆっくりと、けれど着実に、自分たちだけの愛の時間を刻み続けていくのであった。





 日記を更新しましょう(王太子妃ノエルの、幸せな秘密の日記より)。


『○月×日。快晴。

 ジャスパー様と中庭でティータイム。

 相変わらず彼は、通りかかった美しい騎士を見かけると瞳が()れますが、その後ですぐに私の手を握り、『やはり君が一番だ』と囁いてくださいます。

 この両刀という特殊な均衡(きんこう)。世間には口が()けても言えませんが、これこそがエンドワ王家の、新しい安定の形なのかもしれません。

 エヴァーツ家のセリーヌ様が、将来どんな『熟成』を遂げられるかは分かりませんが、私たちのこの……少し歪な愛の歴史も、彼女の審美眼に(かな)うような美しいものに育てていきたいものです。

(追記:王妃様から『孫の顔を早く見せてちょうだい』と、また強力なプレッシャーを頂きました。ジャスパー様、今夜も気合を入れていただきますわよ)』


平和です

これにて第1章完!ということで

次の話から第2章に入ります


「面白かった!」


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「今後どうなるの!!」


と思ったら

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