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TSオジサンはスパダリ達と白霧を彷徨う  作者: 太郎冠者


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7.ギルド

ハンターズギルド。


ギルドの歴史は古い。

まだこの世界に魔物達が闊歩していた時代に成立した組織だからだ。


ファンタジー作品あるあるの冒険者ギルドとかをイメージして貰えると多分それが正解だ。



ギルド成立から数百年。

いつしか人々は魔物を駆逐した。


少なくとも、主要国で魔物を見掛けることはほぼなくなったのだ。


必然的に各国ギルドの規模は縮小、消滅して行った。



しかし、この帝都では未だにハンターズギルドは堂々と存在している。


その理由こそがホワイトメア。


帝都に巣食う怪異への対抗組織としてギルドは存在している。



――――と言う設定だ。




ハンターズギルドは想像よりも綺麗なオフィスだった。


大きな窓のある一階部分にはカウンターや商談テーブルが設置され、前世の銀行の様な造りになっている。



「思っていたより綺麗なんだな……」


「それはもしかして、荒くれ者のハンター達が呑んだくれていたり依頼書が貼られたクエストボードがあったりする様な所をイメージしてた?」


「そうそう! んで、新人はベテランにからかわれたりするんだよ」


僕の独り言をギルが拾って言葉にしてくれる。


「安心してくれ。今もそんな感じさ。こっちが主に依頼主用の表玄関なんだ。ハンター向けの裏口から入るとちゃんと今でもならず者の巣窟だよ」


うん、何を安心すればいいか分からないけど、僕のイメージは正しかったらしい。

この世界は19世紀くらいのロンドン風のファンタジー世界だ。


確か英国は富裕層と労働者層で入り口が違ったりするらしいからその辺のイメージかもしれないな。


そうなるとあそこも存在している可能性も高そうだ。



「――――資料室もそっちにあるの?」


「確かギルドの二階にあったはずだが……。あぁ、なるほど。『白兎』の情報かい?」


そう。僕の武器は基本的にVEMヴェイパー・エクス・マキナ の知識しかない。


元の世界に帰る為にも、そしてこの帝都で生き抜くためにもこの知識がどこまで有用か確認する必要があるだろう。


――――よし。



「ふむ。そうなるとギルドの登録は必要だろうな。そういうのは裏手の方なんだが……」


「そうか! ありがとう! んじゃあちょっと行ってくる!」


「……ん? 今からかい? いや、そもそも君がハンターになるつもりか⁉」


何やら驚くギル。

そんなに変な事を言っただろうか?


「そりゃあね。一応小銭はあるけど、ハンター登録してお金を稼がないと今日寝る所もないんだし……」


使い切ったはずなのに何故か再びポッケに入っていた小銭を指で触る。

もしかして、これが死に戻った証拠なのかもしれないな……。


初期増備のまま死体のある場所でのリスポーン。

まるでゲームの世界みたいだ。



「いや、それは分かるが……」


何となくギルの言いたいことが分かる。

純粋に僕の心配をしてくれているのだ。


でも――――。



「……正直さ。帝都に来る前はギルに頼る気満々だったんだ」


「ふむ。吾輩がその話を受けるかどうかは兎も角、賢明な判断だと思うがね?」


茶化した物言いだけど、ギルは本当に良い奴だ。


僕が助けて欲しいと言えば、きっとイケメンスマイルを浮かべ二つ返事で了承してくれるだろう。


でも――――。



「ギルは僕なんかが思っていたよりずっと優しくて良い奴だ。そんなギルを利用するみたいで、何かそういうのは駄目だなって思ってさ……」



そうだ。ギルに僕の手伝いなんて似合わない。

それこそ物語になるみたいな大事件を華麗に解決する主人公なんだ。


僕みたいなモブが関わっちゃ駄目なんだ。



そう言ってポケットの小銭をかき集めてギルに握らせる。


「少ないけど、これ今の僕の全財産。残りはツケといて! 絶対借りは返すから!」


「――ユーリ⁉」


そう言って僕は駆け出した。



ギルの優しさに小銭を差し出すだなんて、何と恩知らずな対応だろう――――。


そんな罪悪感からか、僕はギルの顔も見ずにギルドへ向かった。




裏手に回ると、そこにはまるで違う世界の様だった。


表通りは煩雑ながら活気に満ち溢れ、道行く通行人も小奇麗に着飾った人が目立っていた。


でも、通り一本挟んだここはまるで雰囲気がまるで違う。


薄暗い石畳は油と得体のしれない粘液で黒ずみ、金属と油、そしてすえた臭いが入り混じった複雑な臭いが鼻をつく。


遠くで魔導ボイラーの低い唸り声が響き、壁を走る壊れたパイプからは白い蒸気がシュウシュウと漏れている。



「こ、これは……中々だな……」


勇気を振り絞って危険な雰囲気の路地裏を進む。

くねくねと複雑に折れ曲がった細い歩き難い道。



普通に考えれば建物の裏口と言うならすぐ分かるはずである。


何せ表玄関の反対側にあるんだから。



かれこれ10分ほど歩いて僕は気付いた。


あれ? これ迷ったんじゃない?


さっきから進めど進めどそれっぽい入口が見当たらない。


と、とりあえずもと来た道を戻ろう。うん。それがいい。



頭に浮かぶ迷子の単語を振り払い、寝ているのか死んでいるのか判断のつかない寝転がる浮浪者を横目に、おっかなびっくり歩いていると突然後ろから声を掛けられた。



「お嬢ちゃん、だよなぁ? こんな路地裏に一人なんて危ないぜ?」

「そうそう、お兄さんたちみたいな悪ぅい大人につかまっちゃうよぉ?」


ガハハハッと笑いながら下卑た声で見るからに怪しい風体の二人組が声を掛けてきた。


ゲッ……!

なんでこんな時にお約束イベントが……!


それなりに鍛えているのだろう。

薄汚れた服からは鍛えられた筋肉が見えている。

そして腰には銃とナイフ。


どう見てもならず者です。本当にありがとうございました。


いや、馬鹿な事考える場合じゃない。


これはヤバそうだな……。

今の僕は細身で非力な女の子。


元の僕も喧嘩なんかしたことがない身の上だったが、やはり男女の差は大きい。


とりあえず、思いっきり走って逃げるしかない。


覚悟を決めて腰を落とし、じりじりと男たちから距離を取ろうとすると――――。



「おや? 君達、こんな所で一般人に絡んで何をしているんです?」



男達の後ろから新たな声が響く。


それは背の高い怜悧な男だった。

長めの暗い紫紺の髪。


スマートな体躯を高級そうな服に包み、冷たい笑みを浮かべている。


あいつは……!



「ギ、ギルマス……!」

「い、いや、俺たちは別に……」


やっぱり! あいつはウィリアム・ロンドリング伯爵!

 


「別にお行儀よくしろとは言いませんが、最低限、他所様に迷惑を掛けるのは止めて貰いたいですね」


もしかしたら癖なのかもしれない。

眼鏡をくいっと持ち上げ、男たちを見下ろす。



「も、もちろんでさぁ! な?」

「そ、そうそう! こんな路地裏を女の子が一人で歩いてるなんて危ないじゃないッスか!」



ホントかなぁ……?

なんか女の子になったからか知らないけど、男の下卑た目線がやけに目につくんだよなぁ。



「……警告はしました。これ以上何かを言うつもりはありませんが、次から警告はなしです。いいですね?」


お前達の言葉なんか毛頭信じていないと言わんばかりの、ブリザードみたいに冷たい目線が二人を貫く。


「「は、はいぃいぃいいっ!」」


走り去る男達。

これ、もしかしなくともアイツらハンターなんだろうか?


あれがハンターの普通なんだったら嫌だな……。



「……確かにハンターはならず者が多いですが、一応、犯罪者はいませんよ。あれも単なるナンパのつもりだったのでしょう」


「そ、そうなんだ……。あれ? なんで僕の考えを……?」


「ちょっとしたスキルの応用です。さ、ギルドに行きたいのでしょう? こっちです」



そう言うと伯爵はスタスタと歩き始めた。


「え、ちょっと待って!」



どんどん先に進む彼を慌てて僕は追い掛けた。



ハンターズギルドの入口はかなり裏路地の奥まった所にあった。


路地裏に隠れるようにひっそりとスイング式のドアが設置されている。


うーん。この辺りは通ったのは覚えているけど、こんな入口あったかな?



「実は公表はしていませんが、ギルドの裏口には認識阻害の魔法が掛けられていましてね。一定以上の実力者でなければギルドに入ることが出来ません」



……え。そ、そうなの?

ギルはそんな事言ってなかったと思うんだけど……。


「これはギルノアも知らないでしょう。まぁ彼は天才肌ですから自分を基準に考え過ぎる所がありますし気付いてすらいないでしょう」


あー、うん。それはあるかもしれない。


って言うか考えた事に応えてくれるって便利だな。

伯爵のスキルってなんだっけ?


確か読心じゃないとは思ったんだけど……?



キィっと音を立てて西部劇に出てくる様な木製のスイングドアが開く。



ギルドの一階は閑散としていた。


だだっ広い木と石造りの部屋には年季の入ったカウンターやクエストボードが設置されている。


そんなどこか薄ら寒い無機質な部屋の真ん中に彼がいた。



「遅かったじゃあないか、ユーリ」



何故か一脚だけあるテーブルセットで長い足を組み、優雅に珈琲を飲む。


アイツが座ればどんなにボロいテーブルセットも何だか素敵なアンティークに見えるから不思議だ。



「……何でここにいるんだよ。ギル」


「さっき言ったろ? 吾輩はここに昨日倒したホワイトメア、あのゴブリン共の報奨金を受け取りに来たんだ。つまり、来るのは当然裏口のここさ」



……なるほど? じゃあ、あの駆け出した僕の行動は何だったんだ?


うん。完全に僕の思い込みと、いい歳こいてメンタルがヘラった痛い行動ですね。


ヤバい。死にたい……。



「そんな事よりもギルノア。他のテーブルセットはどうしました? それにこの時間帯ならいつもは何人もハンターがたむろしているはずですが――――あぁ、あそこか」


伯爵の目線を追うと部屋の隅っこにバキバキに壊された複数のテーブルセットと気絶したハンター達が転がされていた。


……おい。何やってんだコイツ。



「吾輩がここに来ると血の気の多い連中が喧嘩を売ってくるんだ。あの手の矮小な人間は、完璧な存在を目にすると否定せずにはいられない様だ」


困ったものだとファサっと髪を払うギル。



「どうせまたその調子で喧嘩を売ったんでしょうに……」


はぁと溜息をつく伯爵。

なるほど、中々苦労している様だ。



「まぁ、多元的に見ればそういう解釈も出来るかもしれないな。――さて、ユーリ。夜までもう時間がない。さっさとハンター登録をしてしまおう」


「――――え、いや、だから僕は……!」


「さっきの話は、私の世話になるのが嫌なんじゃなくて、自分なりの価値を示したいとかそう言う事だろう?」


ギルは、ふむと腕を組み優しく問い掛けて来る。


ん……。確かに僕の心境を一言でいうならそんな感じかもしれない。



「た、多分……そんな感じ、かな?」


「なら安心してくれ。きっと君とならいいコンビが組める、そんな気がしているんだ」


――――え? 僕と、ギルが……?



「いやいやいや! 何言ってるんだ! そんな訳ないだろ!? 僕なんか足を引っ張るだけに決まってる!」


わたわたと両手を降って拒否をする僕。

そんな僕を見てギルはチラリと伯爵を見る。



「どう思う? ウィル」


「――――好きにしたまえ」


そう言いながら、溜息をついて伯爵は僕に紙を渡してくる。

これは、ハンター登録用紙……!?



「ほら、大丈夫だ。なんせ卑しくも皇帝陛下より帝都のホワイトメア案件全てを一任されている我等がギルドマスター、ウィリアム・ロンドリング伯爵のお言葉だ」


「いやいや、凄い人なのかもしれないけど、会って数分の僕の何が分かるって言うんだよ……」


「おや? ユーリ、ウィルのスキルは知らないのか?」


「えぇっと、補助系の何か凄いやつだった気が……あ、未来予知かっ! そうか! だからギルは昨日列車にホワイトメアが発生するって知ってたのか! もしかして、今日僕が来るのもそれで事前に知っていたとか……?」


「!?」


目を見開いて驚く伯爵。


あ、これもしかして不味いやつ……?



確かギルマスであるウィルのスキルは『未来予知』、正確に言えば夢見とか予言に近いスキルだ。


数日とか数週間先の事件とか危機、何か大きなターニングポイントを察知出来るとかだったはずだ。


その応用で任意に数秒先の未来を読むなんて事も出来るらしい。


彼が強キャラたる所以である。



「……正解です。私のスキルをここまで知られているのは予想外でしたが……」


驚くと言うよりいっそ疲れた顔をした伯爵が同意する。



「くっくっくっ。予知の精度が甘いんじゃあないか? ウィル」


「以前も言いましたが、このスキルもそこまで万能という訳でもないんです。

あまり調子に乗っていると生きたまま腑分けしますよ? ギル」



どうやらギルは初めから伯爵の隠していたスキルを知っていたのか……。


やっぱり初日の汽車にギルがいたのは伯爵の差し金だったみたいだ。



この二人はタイプは違う感じだが、軽口を言い合う様な仲らしい。



「取り敢えず、ギルドマスターとして二人には指名依頼を出させて頂きます。

依頼内容は今晩一晩、君達コンビで帝都の東部を巡回していただきたい」


「――――報酬は?」


「百五〇万ダレク。勿論一人頭です。明日の朝までには用意しておきますよ」


えっと、設定では一ダレクが大体一円くらいのイメージだったはずだ。

え、一晩百五〇万円⁉


「や、やります!」


僕は思わず即決してしまった。


そんな僕を見て何故か満足そうなギル。

そして、不敵に、そして何だか胡散臭さと危なさと興味が絶妙にブレンドされた笑みを浮かべる伯爵。


そう、まるで興味深い実験にモルモットを投げ込んだ様な……。



もしかして僕、早まったかな……?



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