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TSオジサンはスパダリ達と白霧を彷徨う  作者: 太郎冠者


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6.白兎


「なぁ、ホント悪かったって。機嫌直せよ」

 

「……………………別に機嫌は悪くないさ」

 

「別に騙すつもりはなかったんだよ。それにまぁこの身体が女の子なのは確かだし」

 

「……ああ、そうだね」

 

 

さっきからずっとこの調子である。

一応、返事は返してくれるがギルはずっと虚空を眺めてぼんやりしている。

 

 

あの後、僕はギルに全てを打ち明けた。

 

僕が異世界人であること。

そしてこの世界に来た時に女の身体に男の魂という変な存在になってしまったこと。

 

後はこの世界のことやら向こうの世界での僕の事をちょっと話したらこんな風になってしまった。

 

ギルとしても信じ難い話を何とか咀嚼し理解しようとしている風に見えるのだが、如何せん、こう黙り込まれると僕がいたたまれない。

 

イケメンに黙り込まれると素直に怖いのだ。

 

 

「えっと、……お、おっぱい揉む?」

 

「やめたまえ!」

 

小粋なジョークのつもりが怒られちまった。

やっぱり僕はこういうのは駄目だな……。

 

「しかし、君からするとこの世界が物語の中か……。流石にそこまでは想定していなかったな。だが、大変興味深いのは事実だな」


何とか気持ちを立て直し、僕の方を見る。

この男は真っすぐ人を見るのだな、と何ともなしにそんなことを考える。



「ちなみに、元の世界に帰りたいとの事だが、あてはあるのかい?」


「一応、ね。……『白兎』って知ってる?」


「Sクラスのホワイトメア! それに遭遇した者は異世界に旅立つと言われている異世界への案内人か!」


パンと手を叩いてオーバーなリアクションをとるギル。



ホワイトメアにはランクがある。

漫画や小説でよくあるAからEまでの五段階評価だ。


基本的に脅威度で算出されるこのランクには別格のSランクがある。

この辺もあるあるの話だ。


ちなみに昨日のゴブリンはEランク。

つまり、Sランクの白兎はこの世界で言う所の最悪の厄災という訳だ。



「僕の記憶では、白兎が確認されたのは約48年前。その際に帝都の西側エリアが一晩で半壊したって話だったと思うんだけど、それは事実?」


「らしいね。ホワイトメアはどれだけ強大でも一晩経てば朝日と共に消えるのが良い所さ。二回目があるかはランダムだがね。多分ギルドに行けば何か情報があるかも――――おっと、もうこんな時間か」

 

そう言ってギルは壁に掛かった時に目をやる。

時間はお昼を回った頃。

 

まだ夕方と言うには早い時間だ。

 

 

「あ、なんか約束?」

 

「約束と言うか、今回のホワイトメア討伐の報奨金を貰いにギルドにね」

 

 

ギルド! ネットで見たなソレ!

 

確かホワイトメアを狩るための民間組織で、街の市民達が出資者としてホワイトメアに懸賞金を掛けてるとかなんとか!

 

そっか、やっぱりギルドはあるんだ!

 

そりゃあそうか。ここはVEMの世界なんだし!

よくよく考えたら僕は今、あの帝都にいるんだもんな……。

 

 

「……君も来るかい? ユーリ」

 

「え、いいの!?」

 

「そんな興味いっぱいですみたいな顔をされちゃあね。どうせ行くところもないんだろう? 良かったら一緒に行こう」

 

やれやれと言った顔をしながらギルが手を差し出してくる。

 

「うん! ありがとう!」

 

僕は心からの笑顔でギルの手をとった。



何せ僕は僕の持つ知識が正しいのか分からないしね。


ハンターズギルドなら過去に観測されたホワイトメアの情報があるはずだし、知識の擦り合わせは現実への帰還を目的にする僕としても急務だ。


渡りに船とはこの事だ。



しかし、なんだか本当にギルに頼りっぱなしだ……。

それを目的にしていた僕にとっては今の状況は万々歳だが、やっぱり何だか申し訳なささが鎌首をもたげてくる。

 

 

「……なんだか複雑だな。君の笑顔が魅力的であればあるほど微妙な気持ちになる。私のこの気持ちはどうすればいい?」

 

「受け止めることは承服しかねる……かな」

 


どうやらお互い同じような気持ちらしい。

 

 

 

異国情緒溢れる雑多な街並みをギルと二人で歩く。

 

ギルは流石の色男で、僕の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる。

 

近いけど不快感のない、そんな絶妙な距離感。

何のストレスもなく僕は周りの風景に引き込まれていった。

 

見るもの全てが新鮮だった。

 

皮や金属をあしらった待ち行く人々の服装。

これぞスチームパンクといった風情だ。

 

街のいたる所に大小様々な歯車がせわしなく動き、蒸気を吐き出す何だかレトロな街並み。

まるでおもちゃ箱をひっくり返したような都市。

 

間違いなくパソコンの画面の向こう側に広がっていたVEMの世界!

 

 

「なぁなぁ! ギル! あのでっかい歯車は何?」

「あれが帝都の大魔導汽罐ボイラーさ。あの歯車は遠心分離用の駆動部分だね。希少鉱物である魔石を特定の速度で回転させることで生まれる魔力蒸気。それを利用することで帝国は繁栄を謳歌しているんだ」

 

おぉ! あれが大魔導ボイラー!

やべぇ、でけぇー!

 

なるほど。つまり、蒸気機関とは逆なんだな。

蒸気機関は蒸気を使って歯車を動かし、動力にしている。

 

でも、ここでは歯車を動かす事で魔力蒸気なるエネルギーを生み出しているらしい。

 

確かネットでそんな設定を見た事があったな。

 

 

「魔石? あぁ、太古の魔物の魂が結晶化したとかいう設定の鉱物か!

それを使っているから魔力蒸気になった魔物の魂が人間の感情に呼応してホワイトメアになるんだっけ?」

 

 

何気ない僕の呟きに、ギルが顔色を変えた。

 

いきなり腕を掴まれ、無言で路地裏に連れ込まれる。

 

な、なんだいきなり!

 

 

「ユーリ。あまり不用意にヤツラの事を口に出すな」

 

ギルの真っ赤な瞳が視界いっぱいに広がる。

狭い路地の壁を背に立ち、いわゆる壁ドンの態勢だ。

 

「ご、ごめん……。や、やっぱりこの情報も秘密、だよね?」

 

「秘密どころかまだ仮説の範囲だ。事を公に出来ないからヤツらの研究は全く進んでいなくてね。

……そうか。やはり魔石が原因なのか……」

 

頭痛を我慢する様にはぁと大きなため息をつく。

 

どうやら僕が何気に言った言葉はなかなかの厄ネタらしい。

 

 

「お、おぉ……。なんかごめん。気を付ける」

 

「……今から行くハンターギルドにはヤツラを研究している変わり者がいる。

変人とかマッドサイエンティストと言っても良い」

 

真剣な目つきでギルは僕に言う。

 

「こんなスキルを持つ私も何度も取り調べを受けたし、何なら顔を合わせる度に人体実験をしたいと言ってくるマッドな奴だ。本当に気を付けてくれ」

 

マジか。え、でもそんな危険な奴いたか?

 

まぁギルのスキルは完全にホワイトメア由来。

そんな危険な手合いであれば間違いなく興味を示すだろう。

 

僕も危ういな……。うん。静かにしておこう。

なんせ僕は元々陰キャだ。

部屋の隅っこでコソコソしているのは得意なんだ。

 

「でもそんな危険人物がなんで野放しになっているんだよ?」

 

まぁこの治安の悪い世界だからかもしれないが……。

 

 

「簡単だ。奴はハンターギルドのトップ。ギルド長だからだ。残念ながら社会的地位ならやつの方が吾輩より上だ」

 

 

ギルド長!?

 

待て待て待て! ギルト長って言えばあれか!

 

 

「そ、それってメガネかけたクール系のスマートなイケメンだったりしない? 研究一筋な魔導技士!」

 

「マッドサイエンティスト気質で陰湿なガリメガネの魔導技士をスマートなイケメン眼鏡と表現するのであれば正しいな」

 

 

間違いない!

 

帝都に潜むホワイトメアを研究する第一人者!

 

ウィリアム・ロンドリング伯爵!

 

帝都におけるホワイトメア退治の責任者の一角であり、そしてその殲滅を目指す復讐者。

 

ギルとは違う理由でホワイトメアに執着する狂気の人。

 

ギルと人気を二分するメガネ系スパダリ貴族だ!



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