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TSオジサンはスパダリ達と白霧を彷徨う  作者: 太郎冠者


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4.報復の一撃

「う、うゎあああああっ‼ 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」

 

 

突然の急降下に思わずギルの首に手を回して抱き着く僕。

おっさんがおっさんに抱き着く最悪の絵面だ。

 

あ、僕は今美少女か。

 

なら問題ない――――訳あるか!

こんな事になるならキャラ作る時にもっと戦える設定を盛っておくんだった!

 

 

混乱する頭、次第に近付いてくる地面。

僕の人生のタイムリミットまで残り数秒。

 

あぁ、来世ではおれつぇー系になりたい……。

 

 

 

死を覚悟した瞬間、バサッと大きな羽音が聞こえ落下が止まる。

ふわりと身体が浮く。

 

「ふむ。最近は帝都のボイラー技士達も色々努力をしているが、やはり白霧の積層範囲が拡大している……。数年前まで線路の下は豊かな森林が見えていたんだ」

 

頭の上から余裕綽々なイケボが聞こえる。

 

見るとギルの背中には悪魔の様な大きな蝙蝠めいた羽根が生えていた。



そして、その端正な顔の右半分を長い犬歯が特徴的な恐ろしげなハーフマスクが覆っている。


これは白霧の王のスキル……!


 

「そっか……。この辺りにも白霧が……」

 

帝都は周りを切り立った崖みたいな山に囲まれたすり鉢状の土地にある。

なので帝都を怪異渦巻く鍋の底と言ったりもするらしい。

 

……まぁネットの設定の話だけど。


僕の目の前には、ミルクをぶちまけた様な真っ白な霧が沈殿していた。

川端康成風に言うなら、夜の底が白くなった、なんて光景だ。

 

 

「どこまでご存じかは知らないが、吾輩の『白霧の王』は君主の力。ホワイトメアの能力を奪わないと使えないのが玉に瑕でね。いつだったか吸血鬼と対峙出来たのは幸いだった」

 

そう言いながらギルは力強く吸血鬼の羽根をはためかせ、ぐんぐんと上昇する。


今付けているハーフマスクが吸血鬼のホワイトメアの力って訳か……

 


ギルのスキルは一言でいうならホワイトメアの能力を奪うコピー能力。


個人的に出て来たら興醒めするおれつぇー系の代名詞みたいな能力だ。


その特徴は、ホワイトメアを仮面にして蒐集する事である。


一度蒐集すれば白霧さえあればいつでも仮面を呼び出せ、その力を振るう事が出来る。


ちなみに特に被る必要はないらしい。

列車の中でも仮面を付けなくても普通に力を使えていたしな。


この伊達男の事だ。


顔全部を覆うのは嫌いなのだろう。



そして設定としては、ギルに能力をコピーされたホワイトメアはその存在を維持出来なくなる。


正確に言うならば、その存在ごとギルに取り込まれてしまうのだ。



そんなギルの目的はただ一つ。


全てのホワイトメアを完全に取り込み、全てのホワイトメア達と死ぬ事。



色々過去設定がある彼だが、この状況なら抱いて欲しいレベルで頼りになる。

いや、ホントに抱かれてるけど。

 

 

「ほら、ユーリ。見てごらん。ここからだと帝都が良く見える」

 

ギルに言われて視線を先にやると、月明かりに照らされた白い霧に沈む街の灯が見えた。

 

あれ全部が怪異の発生源である白霧……。

 

 

「まるで白い海の底に沈んだ太古の遺跡みたいだ……」

 

「なかなか詩的だね。たとえこの瞬間に世界全てが白霧に沈んでしまったとしても、君と言うイブに出会えたことに吾輩は神に感謝を捧げるだろう」

 

「なんでアダム気取りなんだよ。その背中の羽根だと知恵の実を食わせた蛇ポジションじゃないか?」

 

「……ほう?」

 

僕の返しにギルがその整った眉を片方だけ器用に持ち上げる。

 

あれ? 僕なんか変なこと言った?

 

 

「グギャ!」「ゲギャギャ!」「ぎゃぎゃぎゃ!」「グーギャギャギャ!」

 

ドパララララララララ‼

 

そんな僕の思考はゴブリンたちの銃声で掻き消える。

 

やっべ! こいつらの事忘れてた!

 

僕たちを追ってきたのだろう。

直ぐ真下の線路の上に右腕の歪な機関銃を放つ四匹のゴブリンたち。

 

「ふむ。今度は遊ぶ気がなさそうだな。先ほどと違ってこちらを当てにきている」

 

呑気に分析しながらもギルは器用に羽根を操って銃撃を避ける。

 

 

「うっうわぁあ! 死ぬ死ぬ死ぬ! 今度こそ死ぬ! ギル何とかしてっ!」

 

「うん、まぁ何とかするつもりだが……」

 

「今度はなに!?」

 

「いやね? 確かに君が可憐な美少女なのは認めるが、どうも仕草が今ひとつ琴線に触れないと言うか……。いや、そのままの君も素敵だが、吾輩としてはもう少し違う一面も見たくある」

 

「言いたいことはハッキリ言ってくれ!」

 


「ちょっと可愛くおねだりしてくれ」

 

……は? こいつ頭イカれてんのか?

 

「麗しき姫君にご褒美を願う哀れなピエロと笑ってくれ、ユーリ」

 

自虐的な事を言いつつも余裕たっぷりにキラリと光る笑顔を見せてくるギル。

 

 

そしてその間も当然ゴブリン達の掃射は続いているが、視線すら向けずに華麗に避けている。

 

しかも僕に気を使ってか、急制動なしでだ。

 

このシゴデキピエロ野郎……!

 

男の僕を口説いてるんだから確かに道化の類いだと思うけど、時と場合を選べ!

 

あー、もう! くそ!

 

 

「た、頼れるのはギルだけなの……。お願い。助けて……!」

 

「心得た!」

 

言うが早いかギルは吸血鬼の羽根をはためかせ、弾幕の中を急加速して複雑な起動を描き、高く高く天を目指す。

 

 

「う、うわぁああっ!」

 

「違う! この場合はきゃあだ!」

 

「き、きゃあああぁあ!」

 

「よし!」

 

 

思わずギルに言われるがままに出したことがない声をだしてしまう僕。野郎……!

 

僕の恨みがましい目線を涼やかな顔で受け流し、ゴブリン達の銃撃を華麗に回避する。

 

そしてゴブリン達の機関銃の有効射程外に到達し、ギルは空中に静止した。

 

 

怪しく光る月光の元、傲岸不遜な白霧の王様はゴブリン達を見下ろして不敵に嗤う。

 

「ぎ……ぎゃ?」

 

何かを超越したような雰囲気に呑まれ、ゴブリン達がギルを見上げ、戸惑う。

 

 

「――――ホワイトメアにも種類がある。

ゴブリンのように単一の種族として存在する場合と、より強く、より凶悪なユニーク個体だ。」

 

 

ひょいと僕を片手で抱きなおし、空いた手で指を鳴らす。

 

悔しいが、絵になる仕草だ。



白霧がギルの顔周りに集まり、吸血鬼のハーフマスクの形が変化する。


長い犬歯はそのままに、額の辺りから角が生え、目付きが鋭くより凶悪な顔に変わって行く。


 

ズズっと空気が振動する。

 

ギルの周りの空間が歪み、過剰に装飾を施されたマスケット銃が――――違う。

 

マスケット銃を構えるナニカが空間の歪みの向こうにいる……!

 

それは溜め込んだ感情を押さえつけているのか、かすかに見えるマスケット銃を持つナニカの腕は震えている。

 

 

「報復の射手。コイツは自分が不快だと感じた事象に必ず報復をする。お前達の下手くそな乱射に彼は酷く腹を立てているぞ?」

 

次第に。そして段々と強く。ついにはガチャガチャと音を立てて銃身が震え出す。

 

あれは何かヤバい。もう決壊寸前だ……!

 

 

「全ての愚かなるモノに報復の一撃を!」

 

 

明朗たる王の宣誓と共に、無慈悲な凶弾は放たれた。

 

純然たる殺意と怒りが籠った一条の流星が線路に着弾し、ゴブリン達ごと炸裂する。

 

 

全てを消し飛ばすかの様な光と轟音。

 

 

そして、全てが収まった頃にはまるで線路ごと渓谷をスプーンでくり抜いたかのような異様な爆心地が出来上がっていた。

 

熱も煙も何もない。

 

ただただ全てを消し飛ばした奇怪な爆発。

 

 

「どうだい? ユーリ。お望みは叶ったかな?」

 

先程までと変わらぬ軽薄さで僕ににこやかに笑うギル。

 

「あー、うん。助か――――。」

 

「んー?」

 

「と、と、とても感謝してる……わ。ありがとう、ギル。」

 

「お礼なんていいさ! 君と私の仲じゃないか!ユーリ!」

 

 

こいつはいけしゃあしゃあと……。

設定しか知らなかったけど、こんなめちゃくちゃな奴だったのか……。

 

 

途中からぷっつりと間が消失した線路の上にギルが降り立つ。

 

静かに着地をして羽をしまい、ギルはまるで壊れ物を扱うような手付きで僕を降ろす。

 

言動はともかく、基本的に紳士なんだよな。

コイツ……。

 

 

「さて、ユーリ。君の目的地は帝都だろ?

歩きながら君の話を聞かせてくれないかい?」

 

恐ろしげな仮面を外し、仮面は白い霧となって宙に消える。


優しい口調はそのままだが、その目はさっきまでと違って少し真剣だ。

 

まぁ、当然聞きたいのはギルの名前やスキルを知っていた話だろうな。 


んー、よし。素直に話すか。

 

信じてくれるかは分からんが、少なくとも協力を依頼する相手に隠し事なんてナンセンスだ。

 

ここは素直に事情を説明して誠心誠意お願いしてみよう。

 

 

「ああ。ちょっと信じ難い話なんだけ――――」

 

その時、びゅおっと強い風が吹いて僕の頭の上に乗っていたキャスケット帽を連れ去った。

 

流れるような金髪が風にたなびく。

 

 

「おっと――――。」

 

飛んで来たキャスケット帽子を無意識的にキャッチするギル。

 

この時、ギルの視線は帽子に行っていて隠れ潜む悪意に気付かなかった。

 

 

「ぎ……、グギャ!」

 

 

それはたまたま生き延びたのだろう。

 

下半身だけ綺麗に削り取られ、線路の暗がりで上半身だけとなって転がっていたゴブリン。

 

そいつが最後の力を振り絞ってその歪な右腕をギルに向ける。

 

ヤバい……!

 

そう思った瞬間。

 

咄嗟に僕の身体は動き出し、ギルとゴブリンの間に割って入る。


「ギル! 危ない‼」

 

 

パァン!

 

 

乾いた破裂音が渓谷に木霊する。

 

瀕死のゴブリンが放った報復の一撃は確実に僕の身体を貫き、心臓を抉った。

 

 

「ユーリ……?」

 

 

薄れ行く意識の中、状況が理解出来ずただ唖然とした様子のギルの声が聞こえる。

 

あぁ、くそ……。こんな所で……。

 

意識が暗転し、僕はそのまま冷たい死を迎えた。



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