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TSオジサンはスパダリ達と白霧を彷徨う  作者: 太郎冠者


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3/10

3.白霧の怪異

ギルノア ・スノーヘイズ。

 

 

ヴェイパー・エクス・マキナの世界は言わば不特定多数の人間が書き込める設定集だ。

 

そこには様々な設定やアイデアが日々更新されていた。

 

歴史や都市、人種や組織、人――――。

 

つまり、なぜ帝都に怪異があふれたのかや帝国の怪異専門の処理組織、はたまた怪異を研究したり何かに利用しようとする者、などなど。

 

そしてそれらを元にした数々のストーリー。

 

言ってしまうとオープンワールドの二次創作だ。

 

自分が考えたキャラを活躍させたり、戦わせたり。

色んな創作活動が行われていた。

 

 

ギルノア 、通称ギルもそんなネットの海で産み出されたキャラの一人だった。

 

 

 

帝都に蠢くホワイトメアに関連した事件を時にその卓越した頭脳で、時に鍛えこまれたその武力で、時にその身に宿した怪異の力で解決するハンター。


落とした女の数は星のほど。

常に紳士で余裕綽々に事件を解決する実力者。

 

まさに作者の理想を押し込めた無敵の超人メアリー・スーだ。

 

 

――絵を書こうと思って設定読み込んどいて良かった。

 

ギルは頭の回るキャラであり、怪異であるホワイトメアに対する特攻スキルを持っている。


ぶっちゃけてしまえばおれつぇー系のスキルだ。


 

そして何より無類の女好きで、美女や美少女からの依頼は断らない。

 

今の僕からすると不幸中の幸い。

業腹だが僕の見た目はギルに刺さるはず。

 

僕が帰還する為の助力として、これ以上の人選はないだろう。

 

 

 

「さて、強盗くん達。吾輩と君の実力は天と地、それ以上に離れている事は明白だ。分かり切った事をいちいち証明するのも面倒だし、ここは大人しくお縄についてくれると嬉しんだが、いかがかな?」

 

「あ、あぁん?」

 

大男は予想もしていなかったセリフに困惑する。

 

そんな強盗をよそに余裕たっぷりにギルは手に持ったコートを羽織る。

 

多分、穴が開いた燕尾服を隠すためだろう。

ギルは見た目を何より気にするナルシストな所がある。

 

「まぁ家に帰るまでだ。これで良しとしよう」

 

コートの前を止めることでようやく隠れた胸元の穴に妥協をし、慎重に角度を合わせてシルクハットを被る。



そしてスチームパンクの代名詞のようなペストマスクを取り出し、しばし考えてから小脇に挟む。


あの仮面は……!

 

 

「ん? 何を見ているんだい? 君達。ボケっとする暇があったならさっさと銃を捨てて投降したまえよ。……あぁ、もしかして吾輩の言った言葉の意味が分からなかったのか? すまないね。これ以上君の様な知性の足りていない人間に伝わる様に簡単には話せないんだ。吾輩の無能を謝罪させてもらうよ」

 

「――――死ね‼」

 

ようやく自分が馬鹿にされていると理解した大男の銃口は再びギルを捉え、いとも容易く引き金が引かれた。

 

カチン。

 

……空砲? いや、弾切れ!?

 

 

「バーレンティア社製の大口径リボルバー。ロマンあふれる君の銃の趣味は嫌いではないが、如何せんそれは六連発。さっき君が撃ったのは五発。そして残る一発は――――ここにある 」

 

そう言ってまるでマジシャンの様に白い手袋に包まれた手を開くギル。

 

その中に親指ほどもある大きな実弾があった。

 

 

「い、いつの間に――――がっ⁉」

 

「がふっ!?」「うっ……!」「な、なんで」

 

 

「種も仕掛けも内緒だ。分からない方がミステリアスだろう?」

 

ギルの言葉と共に突如気を失った強盗達は持っていた武器を落とし、床に倒れ伏した。

 

 

それはほんの一瞬の出来事だった。

はた目からはいきなり強盗達が倒れたようにしか見えない。

 

間違いなくギルは一歩も動かず、大男を打倒したのだ。

 

 

ほ、本物だ……。

 

夜の女神から愛された白霧の支配者であり、婉曲な自殺志願者。

 

こいつは間違いなく本物のギルノア ・スノーヘイズ だ。

 

 

 

「さて、前座としては少々興醒めな感は拭えないが、まぁいい。――――時間だ」

 

 

雰囲気たっぷりに間を取ってからギルが虚空を睨む。

 

 

薄らと車両内に降り積っていた白い霧が収束する。

 

まるで下手くそな粘土細工のように霧がぐにぐにと寄り集まり、ナニカを形作っていく。

 

「ホワイトメアが産まれる……!?」

 

 

ぐにぐにぐにぐに……。

 

産まれ……。

 

ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに。

 

 

「産まれねぇな、おい!」

 

 

何かが形成されそうな雰囲気を醸し出しつつ、一向に霧の形は定まらない。

 

完全に肩透かしである。

 

ホワイトメアが産まれる……!?  とか大声で言っちゃったじゃないか!

 

 

「ホワイトメアの出現を見るのは初めてかい? 収束から発現まで多少のラグはあるんだ。」

 

「ロードが長いと飽きられるぞ! っていうか、これだけ場を温めておいて、僕のこの気持ちはどうしてくれるんだ!?」

 

「君の気持は責任をもって吾輩が受け止めるから安心したまえ、可憐なお嬢さん。」

 

「遠慮するよ色男。要は魔力蒸気が核に取り憑いて異種のナニカ……ホワイトメアを形作るってことだよな⁉」

 

「ほう! ずいぶん物知りなお嬢さんだ。公にはなっていないが、その空間内にいる人間の恐怖や絶望を形作るというのが定説だね。」


僕の言葉に少し驚き、ギルはにやりと笑う。


 

「つまり、今回の場合は……」

 

「間違いなくこの間抜けな四人組だろうね。ほら、魔力蒸気が四人に向かっている」

 

 

言うが早いか、霧の塊が四人の列車強盗に流れ込む。

 

そりゃそうだわな、この場の一番の恐怖はコイツらか……!

 

 

「乗客諸君! 逃げるなら今の内だ! すぐにホワイトメアが来るぞ! 先頭車に走れ!」

 

ギルの声を聞いて弾かれたように他の乗客たちが先頭車両に向けて走り出す。

 

必要最小限の荷物だけ持って一心不乱に逃げ出す乗客たち。

 

倒れた列車強盗に蹴りを入れる猛者もいる。

その無駄のない姿からは場慣れすら感じるほどだ。

 

 

え? え? え? 逃げるタイミングここなの?

 

一人タイミングを逃してきょろきょろしているとあっさりと置いてけぼりになってしまった……。

 

これ、確実にみんな逃げるタイミングを伺ってただろ……。なんと言うか皆厄介事に慣れすぎてない?

 

 

「君は逃げないのかね? 勇敢なお嬢さん」

 

「……あんたも逃げないんだな」


「これが仕事だからね。依頼を受けたら職務は遂行せねばならない。お利口なワンちゃんだろう?」


やれやれと肩を竦めて溜息をつく。

もしかして、ここまで全部予定通りなのか……!?



「ホワイトメアの出現を予測していたって事?」


「好奇心は猫を殺すらしいよ 、子猫ちゃん(キティ)?」


「僕は犬派だよ、ギル」

 

思わず名前を読んでしまった僕。

やべ、不審がられるか?

 

 

「あ、あー。どこかで会った事が……あった、よね?」

 

先ほどまでの自信たっぷりの雰囲気は消え、しどろもどろになるギル。

 

こいつ。こちらの反応を読もうと――――!

 

「シェリー……ではないな。分かっている。ミモザは銀髪だ。マリア……はもう少し年上だし、ケイトは碧眼だから違う。金髪金眼だとマール……いや、あの子はもっと背が高い……」

 

ブツブツと独り言のように女の名前を挙げだすギル。

 

いやさ、僕がもっと色々適齢期なお姉さんならわかるけど、見た目十代半ばだぜ?

 

なんでそんなにポンポンと心当たりが出てくるんだよ……。

 

こいつロリコンなのか?

 

疑惑の目でギルを見ているといきなり衝撃が僕を襲った。

 

 

ガクンと地面が揺れる。

 

なんだ⁉ 汽車がブレーキでもかけ……。

 

 

その時、僕は信じられない物を見た。

 

それは先ほど乗客が逃げて開けっ放しになった車両と車両の間のドアの向こう側。

 

切れた連結部分と、後は頼んだぜ!と言わんばかりの顔でサムズアップする乗務員のおっさんだった。

 

爽やかに見捨てられた⁉

いや、もしかして最初からこの予定だったの!?

 

 

ゆっくりと速度を緩める切り離された三等車両の中。

 

驚く僕を他所に事態は刻一刻と深刻化する。

 

ゴキゴキと骨の軋む音を立てて四人組の身体が変化する。

 

地面につくほど歪に伸びた腕。

その反面、身体は元の半分くらいまで縮む。

 

肌の色は緑に変化し、口は耳まで大きく裂けて耳は歪に尖る。

スチームパンク世界だからか、所々に歯車や機械的な部分が存在しているが間違いない。

 

それはファンタジー作品でよくある醜悪な小鬼(ゴブリン)の様な見た目だった。

 

 

「……ご、ゴブリン?」

 

「――――ご明察だ、聡明なお嬢さん。

コイツらのような頭の足りていない悪党は白霧に取り憑かれてよくゴブリンになるのさ」

 

 

変化が終わったのか、グギャグギャと不愉快な言葉を話しながらこちらを睨みつける四匹のゴブリン。

 

 

ま、まぁゴブリンなら大丈夫だろ。

ファンタジー作品なら雑魚の代名詞だし。


ホワイトメアにもファンタジーよろしくランクがある。

ちなみにゴブリンは最下位のEランクだ。


それに対して、こっちにはギルがいる。

 

 

「お前なら問題なく倒せるんだろ? 確か『白霧の王』とかそんなスキルを持ってたよな?」

 

『白霧の王』。

 

ギルが最強である由縁のスキル。

魔力蒸気を支配し、白霧の中であれば基本的に何でもありの無敵超人になれる。

 

銃弾を喰らっても平気だし、リボルバーの弾倉の中から弾だけ瞬間移動させたりノーモーションで衝撃波を出して敵を気絶させたりする事だって出来る何でもありのスキルだ。

 

コイツなら――――!

 

 

「……ふむ。何で吾輩のスキルを知っているかは兎も角、吾輩としては麗しいお嬢さんの期待には応えたいのだがね」

 

何だか困った顔で形の良い顎に手を当て、歯切れの悪い事を言うギル。

 

 

「吾輩のスキルは確かに白霧の中では無敵だ。

……しかし、アイツらが具現化するのに車両に充満した白霧が使われてしまった」

 

……確かに先程まで薄らと降り積っていた白霧がなくなっている。

 

視界がくっきりクリアだ。

 

そして、白霧の発生源である機関車は僕らを残して遥先に走り去っている。

 

これ以上の白霧の補充はない。

 

 

 

「……え、つまりお前今無能なの?」

 

「失礼だな。――――吾輩はどんな時も顔がいい」

 

ふぁさと前髪をかき分け、ドヤ顔をかますギル。

 

 

「グギャグギャ!!」

 

ギルへの突っ込みなのか、四匹のゴブリンが騒ぎ出し異様に長い右手を天井に掲げる。

 

ゴリュ! ゴキン! ゾリュゾリュ! グチョ!

 

不愉快な肉が潰れる効果音と共にゴブリン達の右手が奇っ怪な形に変化する。

 

あれは……機関銃?

 

それは金属と肉と骨で乱暴に形作られた銃。

ちゃちな拳銃なんかじゃない。

 

腕一本丸々使った大型の機関銃だ。

 

四匹の小鬼達の銃口が一斉にこちらを向く。

 

 

「ちょっ……! マジでか!?」

 

咄嗟にギルの腕を掴んで車両の後ろに向かって走り出す。

 

ドルルルルルルル!

 

背中からまるで獣の唸り声の様な銃声が響き、

車両内の壁や椅子が弾け飛ぶ。

 

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」

 

「ほぉ。普段はエスコートする側だが、中々どうして美少女にエスコートされるのも悪くない」

 

全力で後方に逃げる僕の横で余裕綽々な態度のギル。

 

そう広くもない車両だ。

逃避行は僅か数秒。行き止まりにたどり着く。

 

 

そんな僕達を見てグギャグギャと凶悪な口をさらに歪ませるゴブリン達。

 

くそ、コイツら嗤ってやがる!

僕達をすぐに撃ち殺さずに弄ぶつもりか!

 

どうする? どうすれば――――!

 

 

「――――心優しいお嬢さん。そろそろ吾輩としては勇敢に鉄火場をエスコートしてくれる貴女のお名前をお聞きしたいのだが?」

 

こんな時でもギルは呑気に名前を聞いてくる。

お前って奴は……!

 

「悠利だよ! ユーリ・クワバラ! そんな事よりこの場をどうにかする事を考えろよ! 色男!」

 

「ユーリ……! 不思議な響きだが、君によく似合っている。」

 

そんなキザなセリフを吐きながら、ギルは僕を横抱きに抱える。

 

いわゆるお姫様抱っこだ。

 

「え、ちょっ!?」

 

「いつまでもレディにエスコートをされては紳士の名折れ。ここからは任せてくれ」

 

そう言ってギルは列車の進行方向から見て左側。ゴブリン達の掃射でボロボロになった壁に飛び蹴りを喰らわす。

 

 

――――そうか! ボロボロになった壁を崩して外に出てしまえば逃げられる!

 

 

浅はかにも抱いた希望はすぐさま絶望に変わる。

 

 

「え?」

 

 

唐突に内蔵を襲う不愉快な浮遊感。

 

渓谷を繋ぐ一本橋の様な線路。

その中腹に止まった車両から真っ逆さまに僕達は落ちていった。


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