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TSオジサンはスパダリ達と白霧を彷徨う  作者: 太郎冠者


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1.プロローグ

久しぶりのなろうなので、ちょっと練習がてら投稿します

「帝都に行くなら夜には気を付けな。白霧が街を覆う時は特にな」

 

 

男はそう言いながらグビリと安っぽいウィスキーを舐めるように口に含む。

 

アンティークと言えば良いのか、オンボロと言えば良いのかを悩む年季の入ったカウンターに腰掛け、男は存外楽しそうに話を続ける。

 

もしかしたら無愛想な見た目に反して、男は話好きなのかもしれない。

 

 

「夜中になるとたまに帝都の大魔導汽罐(ボイラー)が火を落として魔力蒸気が排出されるんだ。ボイラーの整備や清掃とかでな。その排出された魔力蒸気が一時的に街を真っ白な霧みたいに覆うんだ。

そんな日は夜になると、出るんだよ。真っ白な濃霧に紛れて不可思議な存在が。」

 

 

何故かちょっと怪談話みたいな語り口調で男は僕に話をしてくる。

 

魔法と科学の融合した新しい技術。

魔導術式、通称魔術。

 

簡単に言えば電気やガス、水道の代わりに魔力を各所に送り込む都市システム。

 

ランバルト帝国の首都、帝都の心臓部たる大魔導汽罐(ボイラー)は有名だ。

 

その大きさは帝城より大きく、正に帝国の繁栄の象徴だと謳われている。

 

帝都についたら生で見てみたい建物だ。

 

そして、それと同時にそれに纏わる不思議な現象や化け物の話も有名なのだ。

 

……それを多分、僕はこの世界の誰よりも知っている。

 

 

「若い女だけ切り刻む切り裂き魔とか、非業の死を遂げた大昔の女王の首なし幽霊とか、足がバネみたいになっている大男とか――あぁん? こんなのは聞いたことあるって顔だな。

……まぁ、そりゃそうか。この辺は有名な話だ。坊主がどこかで聞いた事があってもおかしくねぇ」

 

 

坊主、坊主ね……。

 

まぁ確かに僕は小柄だし、幼く見えるのは否定出来ない。

 

でも、よく見れば僕が――――。

 

違う違う。それで良いんだ。

坊主と呼ばれて何が問題だって言うんだ。

 

被っていた大きめのキャスケット帽を深く被り直し、男に向き直る。

 

日が傾き出し、窓から差し込む西日が強くなってくる。

 

呑むにはまだ少し早い、そんな時間。

この場末の酒場にいる客は僕とこの男だけだ。

 

だからこそ今の僕の年齢でここにいても咎められることはない。

 

僕の逡巡などどこ吹く風と男は赤ら顔で話を続けた。

 

 

「それで、ええっと、どこまで話したっけ?

あぁ、そうそう。帝都の夜には不思議な事がよく起こる。最近じゃあそういうのを引っ括めて、白霧の怪奇(ホワイトメア)。そういうんだよ。」

 

 

うん。そうだ。ホワイトメアだ。

 

白霧の英訳であるホワイトミストと悪夢の英訳であるナイトメアを掛け合わせた造語だ。

上手いこと言っているのか、滑っているのかは、まぁその辺は個人の感想かな……。

 

 

「帝都には色んなホワイトメアが出る。さっき言った様なやつ以外にもな。

最近噂なのはホワイトメアを狩る無敵のハンターまでいるって――――」

 

「それ! その話聞かせて!」

 

思わず立ち上がり、顔をずいっと近付ける。

 

「お、おう。……しかし、坊主。お前声変わりもまだしてねぇじゃねぇか。こんな酒場に入ったりしていいのか?」

 

「別に呑む訳じゃないし。話を聞きたいだけなんだ! だからその探偵の事を教えて! どこに住んでるか知ってる?」

 

「え、ああ。なんでも王都の中央地区の外れにあるライス・ストリートのボロいアパートに根城があるって話だな」

 

 

中央地区!そうだ! そうだった!

彼がいるのは中央地区のライス・ストリートだ。

 

何せ彼のプロフィールはどこぞの伝説的名探偵のパクリ位にしか思っていなかったので全く覚えていなかったんだ。

 

ちなみに元ネタの名探偵はベイカーストリートに住んでいる。

 

ベイカーは人名でパンを意味するベーカーではない。

 

なんにせよ手掛かりが貰えたのはラッキーだ!

 

 

タイミング良くブォー! と汽笛の音が鳴り響く。

 

汽車が駅に入って来た音だ。

やばい。そろそろ向かわなきゃ!

 

 

「ありがとう!おっちゃん! これ少ないけど取っておいて!」

 

そう言ってポケットからコインを何枚か掴んでテーブルに置いて勢いよく立ち上がる。

 

これで汽車の切符を買ったら晴れて文無し。

でも、何とか目的地にはたどり着けそうだ。

 

勢いよく立ち上がりすぎたのか、僕の頭に乗っていた大きめのキャスケット帽から腰まで伸びた長い金髪がこぼれ落ちた。

 

あ、くそ。直すの大変なのに……!

 

 

「坊主、いや……嬢ちゃんだったのか?」

 

目をまん丸にして驚くおっちゃん。

 

「見た目はね! じゃ、行くね! 吞み過ぎないように!」

 

 

そう言って駅に向かって走り出す僕。

 

 

本来の僕からすると随分短くなった手足を必死に動かして駅に向かった。

 

先ずは帝都へ!

 

必ず元の世界に帰る手掛かりがあるはずだ!

 

 

 

桑原悠利 38歳。

見た目こそ女の子だが、中身は正真正銘の日本男子だ。

 

僕はある日突然、こんな世界の住人になっていた。

 

 

この世界はスチームパンク系のファンタジー世界。

 

とある創作コミュニティでひっそりと形作られた自由参加型のファンタジー世界だ。

 

 

「異世界転生なのは良いけどさ。なんでTSなんだよ……」

 

 

僕の短くも深いため息は夕暮れ時の駅のホームに舞って消えた。

 


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