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第8話 第二人格、“ギャル”花澤花子 その2

 郊外型複合商業施設、ギャスコ。

 学生向けのお手頃価格のブランドショップ。おっきめの本屋。人でごった返したフードコート。格ゲーよりもコインゲームやクレーンゲームが主体のライトなゲームセンター。複数のスクリーンを持つ映画館。子犬や子猫を愛でられるペットショップ。その他諸々。

 その気になれば一日中だって時間を潰せる地方民の憩いの場である。駅前からは少し離れた郊外に建っているが、無料のシャトルバスも出ている。

 一時はさらに大型の商業施設の建設が計画されたが箱だけを残して立ち消えとなり――その箱が虎子達のたむろする廃ビルだ――、近隣の学生の遊び場としてナンバー1の地位を確固としたものとしていた。


「あっ、新作出てるじゃ~ん」


 花子に腕を取られ、店舗を冷やかして回る。だいたいどんな店の前でもテンション高めで楽しそうにしている花子であるが、その足を本格的に止めたのはファンシーショップの店先だ。

 ぬぼーっと何とも言えない顔付き、身体付きをした手のひらサイズのぬいぐるみストラップを花子は手に取る。


「それ、まだ集めてたのか」


「その言い方、何だか引っ掛かるなー。クズっちが最初にくれたんだよ?」


「いや、まあそうなんだけど」


 首も肩も無く頭部と胴体が一体化した円筒状のボディに、申し訳程度に手足を生やした謎生物である。

 家族旅行のお土産か何かでご当地限定物の“こいつ”を買って帰ったのが始まりだ。土産を渡した時にちょうど表に出ていたのは花子で、それ以来こいつの収集が彼女の趣味の一つとなっていた。旅先で見つければ必ず買うし、地元のものも新作が出る度に必ず購入している。

 とはいえ、じゃらじゃらと大量のキーホルダーやらマスコットやら缶バッチやらが満載された花子の通学鞄に最近は不在だったから、すでに卒業したものかと思っていた。以前は百体近いコレクションの中から数体を選んで日替わりで付け替えていたものだ。


「ん? ああー、バッグにいないから? やっぱ付けとくと汚れたり、糸がほつれちゃったりもするじゃん? だから大事に保管しとこうと思って。前はアピールで付けてたけどねっ、クズっちへのアピールでっ。……でももうそんなことしても、意味ないみたいだしね~」


「うぐっ。……そ、それっ、せっかくだから俺が買ってやるよっ」


「えー、良いのー、クズっち? 何だか催促したみたいで悪いなぁ」


「良いの良いの、ちょうどバイト代出たとこだしさっ。どれが新作だって?」


「えっとねー、これとー、これとー、これもかなっ!」


「そ、そうか、三つも」


「あ、多過ぎだった? じゃあ一個だけで。残り二つはあーしが自分で買うし」


「いやいや、良いって」


 三体の人形を花子からひったくるようにしてレジへ向かう。しめて三千円ほど。

 高校生男子の急な出費としてはけっこう痛い額だ。――しかもいい加減ネタ切れなのか、緑色をした一体のボディに刺繍されているのは“モロヘイヤ”の文字。全身から何本も糸が垂れ下がっているのはもしかして“粘り”を表現しているのか? そしてひょっとするとこの辺ってモロヘイヤの産地だったりするんだろうか。地元民だが初耳だ。

 他の二体も石垣を一部残すだけの地元のマイナー城郭と、ご当地グルメとして四番目くらいに名前が上がりそうな料理名という実に微妙なラインナップである。


「えへへっ、モコモコっ」


 そんな腑に落ちない感満載の三体だが、花子は自身の顔の横に並べるとにっこり笑顔。そんなに嬉しそうな顔をされるとケチなんて付けられるはずもない。


「――あっ、お肉、半額になってるじゃん。うん、脂肪も少ないし、良い感じ。クズっち、かご取って来て」


「はいよー」


 広い店内を一通り冷やかした後は、生鮮食品売り場に。


「これとこれ。こっちも。ひき肉は、あー、冷凍したのが残ってたっけ」


 買い物かごには次々と半額シールが張られたお肉のパックが入れられていく。


「これは?」


「それはちょっと脂身が多すぎるからパス」


 同じように半額シールが貼られているのにスルーされていた一つを差し出すも、花子は首を横に振る。


「えー、これくらいあった方が美味しくない?」


「だーめ、クズっちはそれで良いかもしれないけど、実際に食べるのはあーしらなんだから。まあアスアスやタイガーがたくさん動いてくれるから、太る心配はあんまりないんだけど。だからこそ質の良い栄養を取ってあげないと。アスアス、大会近いし」


「あー、そういやそっか」


 改めて買い物かごの中を覗くと、鶏のささみや胸肉だの、牛や豚もヒレだのモモだのとヘルシーな部位が中心だ。

 そう、この花子は存外しっかり者の料理上手で、物部家の料理番を一手に担っているのだ。

 外では派手なギャルほど家に帰ると実は家庭的、と言うギャップ萌えが生み出した属性であり、また私生活はけっこうものぐさな素子の弱点を補う個性でもある。


「とはいえ、旨そうなのになぁ」


「……もー、仕方ないなぁ。じゃあ今度クズっちがうちで夕飯食べる時、焼いたげる」


 花子はわざとらしく肩を竦めると、俺の手からサシのいっぱい入ったステーキ肉のパックをかっさらいかごへ入れた。


「と言うかクズっち、今日この後食べきなよ。今日っておばさん遅い日でしょ? うちでご飯にしちゃお」


「あー、じゃあ、……よろしくお願いします」


 元カノの家にお呼ばれして手料理ってどうなんだと思わなくもないが、まあ今さらだろう。そもそもその元カノの家はお隣の幼馴染宅であり、今カノ(予定)の家も兼ねているのだし。


「そうなると今日の献立はぁ? クズっちってステーキには白米が欲しい人だよねぇ? じゃあ帰ったらすぐご飯炊くとして。付け合わせはぁ、……あっ、ブロッコリー使おっ。アスアスにも良いしっ、クズっち意外にもけっこう好きだもんねっ」


 何やらルンルンと上機嫌になった花子に引きずられて生鮮食品売り場での買い物を終え、そのままギャスコからも退店して帰宅した。俺的には自宅ではなくお隣に。

 俺の夕飯は豪勢にステーキ。焼き方は改めて聞かれるまでも無く俺の好みでミディアムレア。付け合わせ、と言うにはあまりにも贅沢なブロッコリー、マッシュルームに加えてエビやイカも入ったアヒージョ。いぶし銀な脇役に皮つきベイクドポテト、これはアヒージョのオイルを付けても美味しい。そして炊き立てのどんぶり飯。

 対面に座ってニコニコしている花子が箸を伸ばす皿には少量の酒で蒸してしっとり仕上げた鶏の胸肉に、やはり蒸しただけのブロッコリー。お茶碗のご飯は先程ポテトを食べた分を減らして半量の半量。まさにアスリート飯と言う感じだ。


「えーと、なんかごめん。そうだっ、せめて皿は俺が洗うからっ」


 料理らしい料理は全て俺一人のために用意されたものだ。花子一人なら手間はほとんどかからなかっただろう。


「もうっ、そういうの良いって。てゆーか、クズっちもうちの子達も皿の洗い方がテキトーだかんね、あーしの台所はまかせらんないっての」


「うう、すまないねえ。俺がふがいないばっかりに」


「それは言わない約束だよ、おとっつぁん。――って、これ、元ネタなんだっけ? 時代劇かなんか?」


「いや、俺も分かんね」


 ネタは知っているが実物を目にした覚えがない。食パンをくわえた主人公が転校生とぶつかる少女漫画は実は存在しないらしいが、もしかするとこれも似たような現象か。

 とはいえネタをネタと理解してくれて当意即妙で返してくれるのは幼馴染ならではだ。

 この日は結局花子との会話を楽しみ、腹いっぱい美味い飯をご馳走になって帰宅した。そんな俺が妹子との交際許可の件を思い出したのはベッドに入ってからだった。


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