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第5.5話(閑話) 級友たち その1 妹子の牽制?

「あなたっ、妹子さんと交際を始めたって本当ですのっ!?」


「おわっ、カネコレっ」


 朝の教室に入るなりクラスの女子生徒三人に詰め寄られた。


「カネコレではありませんわっ、金子麗子ですっ! 人を某戦艦擬人化ゲームみたいにおっしゃらないでくれないかしらっ」


 取り巻きの様に二人を引き連れて先頭に立つのはクラス委員長。金子麗子かねこれいこと言う語呂が良いんだが悪いんだか分からない名前の持ち主。


「いや、そんな風に呼んだつもりはないけど。って言うか、そんなゲームよく知ってたな」


わたくし、庶民文化の勉強もかねてソシャゲも嗜んでおりますのっ、刀剣のもお城のも戦国武将のもっ。まあ、お察しの通り初めはわたくしと名前の響きが似たゲームがあるということで興味を、――って、わたくしの名前のことは今はどうでも良いのですわっ! それよりっ、お話しは本当なんですのっ!? 妹子さんと交際を始めたって!?」


「え~と、まあその、…………はい」


「え~っ、ちょっとびっくり。いつかどの子かと付き合うんだろうとは思ってたけど、まさかの妹子ちゃんかぁ」


「てっきり本命は花子ちゃん、対抗で明日香ちゃんってところかと思ってたけど。大穴が来たわねぇ」


 他の二人が意外そうな顔で感想を口にする。


「って言うか君ら、何で昨日の今日でもうそんなこと知ってるわけ?」


「さっき妹子ちゃんが教室来て、嬉しそうに報告して言ったわよ。いや、あれは報告って言うよりも……」


「ええ、牽制ね。お兄ちゃんは私のものだから手を出さないで、ってね」


「なんだ、珍しく俺を置いて登校していったと思ったら、そんなことしてたのか。でも牽制は考え過ぎだろ。妹子に限ってそんなことしないって」


「甘いわよ。幼くたって妹子ちゃんだって女なのよ」


「いやいや、幼くはないでしょ。私ら、いちおう同級生」


「あっ、そうだったわね。ついつい小三のうちの妹と同じ感覚で接しちゃうけど、同い年だったわね」


「そうそう。だから別に、この彼だってロリコンのクズ野郎ってわけじゃないのよ」


「そっかぁ、てっきり八方美人で優柔不断のクズ野郎からロリコンのクズ野郎にクラスチェンジしたのかと思ったけど、考えてみると同級生と付き合いだしただけかぁ」


「ひっどい言われようだな。と言うか、やっぱり妹子が牽制なんてする理由ないでしょ。クラスでの俺のこの扱いの低さよ」


 せいぜい惚気話とか、その類のものだろう。


「まあねえ、私達的にはクズは無しだけどぉ」


「そうよねぇ、私達的にはねぇ」


 そう言って、二人の少女は残ったもう一人に視線を向ける。

 真っ先に詰め寄って来たきり、黙り込んでしまった金子麗子だ。いや、二人が黙って場が静まると、何やらぶつくさと小さく呟いていることに気が付く。


「……そ、そうでしたのね、いつかはこんな日が来るのではないかと思っておりましたけれど。まさかよりにもよって妹子さんがクズと、いえ、クズさんと」


「言い直す意味あるのか、それ?」


「――はうあっ!?」


「おっ、おおっ、そんなにびっくりせんでも」


 独白に割り込むと、彼女は大仰に息を呑んだ。


「なっ、なんでもありませんわっ! ――おーほっほっほっ、おめでとうございますっ、クズさんっ、妹子さんっ! 友人としてご祝福申し上げますわっ!」


 気を取り直したように高笑いと見事なお嬢様弁を決める。

 それもそのはず――と言って良いか分からないが――、金子家は旧華族の家柄であり、近年でも建設業を中心としたグループ企業を一族経営する名家だ。そしてその金子家当主の肝入りで創設されたのがこの学園でもある。

 つまり金子麗子はゲームや漫画によくいるブルジョワな学園理事長の孫娘、その人である。当然金髪の巻き髪も標準装備している絵に描いたようなお嬢様だ。

 ちなみに金子家と素子の物部家は遠縁の親戚関係に当たり、その物部家と俺の家もやはり遠縁の親戚関係にある。つまりカネコレと俺も遥か遠縁ながら親戚同士と言える。


「そうですわっ、お二人の新たな門出を記念して、今日から一週間学園の食堂や購買部でセールを実施しましょうかっ!」


「いや、それはやめて、マジで」


「あら、そうですか? ……ああ、そうですわね。わたくしとしたことが確かに学園内だけと言うのも少々けち臭い話でしたわね。ここは我が社が経営する小売店全店でセールを実施することにいたしましょうっ!」


「いや、マジで勘弁してください。大人しく心の中だけで祝ってくれれば十分です」


「まあっ、慎ましくていらっしゃるわねっ。でもそれでは二人の友人としてわたくしの気が済みませんわっ。そうですわねぇ――」


 なおも“花火を打ち上げる”とか“記念日として学園を、いえ関連企業を休日とする”だとかあり得ない提案をしてくる金子麗子を何とか説き伏せた頃には、授業開始のチャイムが鳴り響いていた。


「じゃあ、俺は一限は――」


「あら、クズさんが珍しいですわね」


 クラスメイト達に声を掛けると、一限の先生と入れ違うように教室を後にした。

 我が校の特殊な事情、特殊な制度で、我がクラスに限っては授業の出席自由だ。それでも凡人にすぎない俺は基本的に無遅刻無欠席を貫いてきたのだが、こういう時は有難い。


「この時間だと、――たぶんあそこだな」


 俺は目的の人物の居場所に目星を付けると、廊下を小走りで駆け抜けた。


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