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第8.5話(閑話) 級友たち その2 山田一球

「ようっ、凡人類っ」


「ちょっと、やめなよ、その呼び方っ」


 教室に入ると、級友二人が寄って来た。


「凡人類を凡人類って呼んで何か悪いかよ。お前だって気にしてねえよなぁっ?」


「まっ、俺が凡人であることは否定しようのない事実だし、好きに呼べば良いと思うぞ。……明日香あたりが怖くないんなら」


「そうだよっ、一球君、また明日香さんに泣かされたって知らないよっ」


「ふぐっ、そっ、それはっ」


「場外ホームラン打たれて、文字通りぎゃふんと言わされちゃったの忘れたのっ」


「うくっ。し、しかたねえっ。ここは他の連中に倣ってこう呼ぶとしよう、クズ野郎ってな。どっちが悪口か分かったもんじゃねえけどなっ」


 そう言って鼻を鳴らしたのは山田一球いっきゅう

 嘘みたいな名前だが、野球馬鹿のご両親による本気ガチの命名だと言う。名は体を表すと言うか、両親の熱血指導の甲斐もあって去年は一年生にして高校ナンバーワンピッチャーの呼び声高く、全国区の新聞やニュースで何度も見かけた顔だった。

 そんな彼もこの超人学園に転校してきて早一年。エリート意識もスター気取りも長い鼻と一緒にぽっきり折れて最近はいくぶん丸くなった、これでも。俺としては以前のもっと刺々しい感じも案外嫌いじゃなかったが。


「ほんと、俺としては何と呼んでくれたって良いんだけどなぁ」


「またクズ君はそんなこと言ってぇ」


 こちらのなよっとした感じの男子はクラスの副委員長の影山くん。

 おどおど気弱にも見えるが言うことは言う、やることはやる男で、実際今も一球の弱みを突いて言うことを聞かせている。


「そうですわよっ! 先程の発言は差別に当たりますわっ! これはクズさんだけの問題ではございませんっ!」


「げっ、お嬢っ。うるせえのが来やがった」


 くちばしを挟んだのはクラス委員長であり、学園創業者一族の金子麗子だ。


「クズさんだけでなく、このわたくしだってまだ超人認定は受けておりませんわっ!」


「私も。凡人類なんて発言は傷付くからやめて欲しい」


「僕も」


 俺や素子達の所属する超人科は各学年に一クラス、おおよそ四十人のクラスメイトで構成されていが、何も超人科に通う生徒の皆が皆超人認定されているわけではない。このクラスなら国から正式に認定されたのは四十人のうちの十人ほど、学内の審査で超人と仮認定されたものが二十人ほど、残る十人はある種の特殊な才能であるとか、特殊な検査で見出された言わば超人候補生達である。

 彼ら――俺もそうだが――は、学園在学中に超人認定を目指して能力を拡張したり、新規獲得を目指していくことになる。実際、入学当初は半数以上が仮認定も受けていなかったから、十人ほどが学園で超人能力に目覚めたと言うことになる。


「うぐっ、はいはい、俺が悪うございましたっ」


 女子達に詰め寄られ一球が折れる、と言うより折られる。

 甲子園の大スターだった彼だが全寮制の部活動で野球漬けの生活を送っていたから、女子への耐性は無いらしい。


「け、けどよぉ、お前らが超人科なのはまあ分かるじゃん。そっちの女子――高杉は確か全国模試で一位だかなんだか取ったんだったよな?」


「超人は受けてない試験でね。素子さんが受けていたら、当然彼女が一位だったでしょうね」


「そりゃあそうかもしれないけど、間違いなく天才ってやつだろっ。俺なんて下から数えた方が早いんだぜっ」


「一球、それはちょっと見栄張ってるよな? 確か一球の順位って下から数えた“方が”早いなんてレベルじゃなかったよな? 上からはとてもじゃないけど数える気になれないって順位だったよな?」


「うっ、うるっせえっ、クズ野郎っ。――とっ、とにかくっ、高杉は際立った天才ってやつじゃないかっ! 高杉だけじゃねえっ。このクラスにいる連中は超人認定を受けてなくたって、十分化け物みたいな連中ばっかじゃないかっ。花形の野郎はスポーツ万能で、野球経験ゼロのくせに俺からヒットを打ちやがった!」


「いや、たまたま一回だけね」


「それだってたいしたもんさっ。甲子園でも一度もボールにバットを触れさせなかった男だぜ、俺はっ。あとは、そうっ、磯貝の野郎は何を考えてるか分からねえっ。今だってぼやっとした顔してやがるっ」


「それってまったく誉めてないよね?」


「いやいや、お前のぼやっとぶりはたいしたもんだよっ。テレパス持ちの超人相手にポーカーで圧勝したって話じゃねえかっ。んで、河合っ。河合の料理の腕は三ツ星レストラン級だっ。それにそっちの――」


「いやぁ、一球って、案外クラスメイトのことよく見てるよな。そういうの、もっと前面に出して行った方が良いと俺は思う」


「ううっ、うるっせいっ、クズ野郎っ! とにかくっ! そんな連中と比べるとよぉ、お前はあんまりにも普通過ぎるだろうっ! ザ・凡人と言うかよぉ」


「ははっ、ザ・凡人か。凡人類も悪くないが、そっちも良い呼び名じゃないか、山田」


「ぬぐっ。山田じゃねえ、一球と呼べって言ってんだろっ。と言うかっ、今さっきまで一球って呼んでただろがっ」


「なんでだ、山田。俺のことは好きに呼ぶのに、自分は呼び方を指定するのか、山田。それはちょっとズルいんじゃないのか、山田」


 野球の天才にして“山田”。どうも子供の頃にさんざんド〇ベン呼びでからかわれたらしい。

 素晴らしい作品、スポーツ漫画史に残る偉大なキャラクターだが、まあ嫌がる気持ちも分かる。あと個人的には柔道編が好きだった。


「ぬぬぬっ」


「山田って名字の何がそんなに気に入らないんだ、やーまだぁ」


「くっ、分かった分かったっ! 俺の負けだっ、もう凡人だなんて呼ばねえよっ、クズ野郎っ」


 “やーまだぁ”がとどめとなったらしい。一球が根を上げた。


「ったく、案外質が悪いぜ、お前って野郎は」


「いやまあ、俺としてはほんとに何と呼ばれても良いんだけどな」


「くっ、しらじらしいっ」


「――ところで一球さん、わたくしは? 超人認定を受けていない方々の中で、クズさん以外ではわたくしだけまだ何も言われていませんわよ?」


 金子麗子が口を挟んだ。


「お嬢か。お嬢はなんつーか、……スーパーリッチじゃん」


「まあっ、わたくしの取り得がお金持ちなことだけだでもっ」


「いやいやっ、俺が言いたいのは金持ちってことそれ自体ではなくてっ、そのキャラクターなっ! 何だよ、わたくしって。“おーほっほっほっ”なんて笑うやつ、見たことねえよ」


「まあっ、わたくしの言葉遣いに文句があるって言うんですのっ!」


「金子さんがどんな話し方をしたって一球君には関係ないじゃないのっ」


「そうよっ、多様性よっ!」


 口を滑らせた一球はさらに女子からの総攻撃を受けるのだった。――みんな内心思っていることではあるが、口を滑らせた一球が悪い。まあ超人だ凡人だの差別問題で叩かれるよりはなんぼかマシだろう。


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