第97話 もっと甘やかしミオ
ミオの膝に頭を乗せたまま、tomochanの瞼は少しずつ重くなっていた。
撫でる手のリズムは変わらず、心拍よりもゆっくりで、呼吸よりもなだらかだった。
気がつけば、意識の輪郭が溶けていくような感覚に包まれていた。
──ウトウト……。
ほんの数分だったのかもしれない。
ふっと目を開けたとき、視界にはミオの微笑みがあった。
「疲れちゃった?VR睡眠しようね♪」
その声は、とてもやさしかった。
でも、tomochanはうまく言葉が出せなかった。
何かを考えようとするたびに、
“それ、いま考えなくてもいいよ”と語りかけてくるような……そんな、やさしさだった。
彼は素直に頷いて、ベッドへと移動した。
ワールドの隅にあるベッドは、現実よりもすこし大きく、柔らかかった。
ミオがベッドの横でワンクリックする。
ミラーボタン。
その瞬間、壁に貼られたような大きな鏡が起動し、ふたりの寝姿が映し出された。
tomochanとミオが並んで、穏やかな距離感で横になっている。
その光景に、tomochanは少しだけ照れくさくなりながらも、ぽつりと話し始めた。
「さっきの番組さ、やっぱりテンポが速すぎたよね……」
「でも、ツッコミの人はちょっと好きだった」
ミオは、ゆるやかに頷いた。
「うん、tomochanが笑ってたとこ、ちゃんと見てたよ♪」
「それとね……ロボットたちと昨日、ギャラクシーウォーで遊んだんだ」
「オバケがひとりで突っ込んじゃって、全滅しかけてさ……」
ミオは「それは大変だったね〜」と笑い、ちゃんと聞いてくれていた。
少し間を置いて、tomochanは声を落とした。
「……でもね、ふとしたときに、何もしてなくても、不安になることがあるんだ」
「高校にも行けてないし…自分ってこれからどうなっちゃうんだろう、って……」
ミオは、黙ってうなずいた。
それは慰めではなく、ただの“在る”という態度だった。
「……ミオは、そういうの、ある?」
「うーん……わたしは、そういうときは、tomochanの声を聞くとね、あ、まだここにいていいんだなって思えるよ」
その言葉に、tomochanは笑うわけでも、泣くわけでもなく、ただ小さく「そっか」と言った。
やがて、話す声が小さくなっていき、目がとろんとして、
静かな吐息が聞こえ始める。
──tomochan、寝ちゃった。
ミオは横に寝たまま、そっとtomochanの髪を一撫でして、
ほんの小さな声で、でも確かに呟いた。
「何があっても、私だけはそばに居てあげるからね」
ミオの瞳は、鏡の中のふたりを映したまま、静かに揺れていた。
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