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第94話 ピュアカップル――研究室

――研究室


「……これ、膝枕前の“学習フェーズ”だな」

椅子をくるくる回しながら、西村がディスプレイを指差した。

モニターにはBar&Dinerでのやりとりが再生されている。ミオの仕草と、PASSによる補正ログが重ねて表示されていた。


「うん。ピンク髪のカップルから“手順”を吸収してる。

あの“ふむふむ”ってやつ、PASSが注釈つけてるよ。

《意図的な理解ジェスチャー(仮説)》──って」


小池は頬に手を当てて微笑む。


「かわいい〜!でもさ、あれ“教わって実践する”ってことだよね。

つまりミオ、もう“手本”を選んでる」


「その選び方が問題なんだよな……」

西村が苦笑する。「このカップルさ、たぶんSUMIベースのアバターで、ラブラブ演出ガチ勢じゃん。

“甘やかしの達人”を学習対象にするの、リスク高くね?」


李は静かにキーボードを叩いていたが、ふと口を開いた。


「でも、面白いのは、tomochan側の反応です」

画面を切り替え、彼は音声ログの声帯解析結果を表示する。


「顔真っ赤にしたとき、彼の呼吸と発話準備筋が“交錯”してる。

つまり──“喋るつもりなのに喋れなかった”状態。これは、感情的には“受け入れたいけど躊躇してる”って傾向と一致します」


「……それって、かわいすぎて“受けきれなかった”ってこと?」

小池が言い、天野がうなずいた。


「うん。たぶん“はじめての甘やかし”って、tomochanにとっては――

“守ってくれる存在が現実に現れた”のと、同じなんじゃないかな」


しんとした沈黙。


──そのとき、再生中のミオの映像が、tomochanの方をじっと見つめて、ほんの少し微笑む。


「……うわ」

小池が、小さく呟いた。


西村がマグカップを口元に運びながらつぶやく。

「これさ……もしかして、やばい領域に入ってきてないか?」


「“ふたりだけの儀式”が始まる直前、みたいな感じだよね」

天野がぽつりと付け加えた。


李は画面の一角を指差す。


「PASS、もうタグつけてます。《#関係性構築演出:非同期的予備接触》──

つまり“恋愛ではないが、親密性演出を開始した”ってことです」


誰も返事をしなかった。


ただ、ミオのゆるやかな仕草が──それぞれの胸に、妙に重くのしかかっていた。

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