第92話 芝生シリーズ「分断された国で、私たちにできること」
【FOX Opinion】
「分断された国で、私たちにできること」
*寄稿者:リンダ・ジョー・ベイカー議員(オハイオ州議会・民主党)*
芝生の上を歩くと、朝露でスリッパがしっとりと濡れます。
それでも毎朝、私は裏庭に出て、コーヒーを片手に少しの時間だけ、ただ座って過ごしています。
芝の間を歩くベリー(うちの老犬です)が、けさはやけに真剣な顔で風のにおいをかいでいました。
理由は分かりませんが、なにかあったのでしょう。あの顔は、何かを“追っている”ときの顔です。
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はじめまして。私はリンダ・ジョー・ベイカーと申します。
オハイオ州議会の議員を務めておりまして、民主党に所属しています。
この連載では、政治の話を中心にするつもりはありません。
むしろ、そうではない話――たとえば、今日の芝生の湿り気や、リスが走ったあとの草の揺れ、
そういう小さな風景のなかにこそ、私たちの国の“分断”をほどくヒントがあると信じているのです。
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オハイオの町というのは、とても静かで、よく音が響きます。
ときおり遠くの踏切の音が聞こえたり、子どもたちの笑い声が風に乗って届いてきたり。
その中に混じって、庭先で交わされる「元気?」という一言が、なんだか妙に温かく感じられます。
私はもともと、教育の仕事をしていました。
政治家になっても、子どもたちの表情や、先生方の悩みはずっと私の視野の中にあります。
いまは旧来の電子機器だけではなく、AIのような新しい技術が、そうした現場にも静かに入り込んできていて、
ときどき「本当にこれでいいのだろうか」と考えることもあります。
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でも、その答えはたぶん、議会の中だけでは出せないのです。
朝の庭で犬と過ごす時間や、近所のおばあちゃんと話すときの口調の中に、
むしろ、いま必要な“人間らしさ”のヒントがあるような気がしています。
芝生というのは、放っておくと雑草が増えすぎてしまいますし、
かといって刈りすぎると、風が通らなくなって、土が乾いてしまいます。
ちょうどよく、が一番むずかしい。でもそれは、人間関係も政治も同じかもしれません。
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この連載では、日々の生活の中で私が感じたこと、
そしてその裏側にある、すこしだけ真面目な問いを、静かに綴っていけたらと思っています。
最初のテーマは「耳」でした。
“勝つための耳”ではなく、“黙って聞く耳”を、私たちはもう一度育てていけるでしょうか。
そんなことを考えながら、ベリーが芝生にごろんと寝転ぶのを眺めていた朝でした。
次回は、私が出会ったある先生との対話について、お話ししたいと思います。
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