第85話 ついに勝った、だけどそれだけじゃない
子供部屋ワールド──
黄ばんだ障子から柔らかな陽が差し込む、昭和の古民家風空間。ちゃぶ台のまわりに座布団、天井には緩やかに回る扇。
「はい、次ラストマッチねー!勝ったらおやつ獲得ー!」
オバケが浮かびながら声を上げる。
「おやつあるの!?」
キツネが驚き、tomochanが笑った。
「おやつは渡さないよ…!」
ミオがぽそっと呟いた。
その言葉に、ちゃぶ台のまわりに一瞬だけ沈黙が落ちる。
次の瞬間、全員がコントローラーを構えていた。
VerChat内の人気バトルゲーム『キャラスマ』──
ちゃぶ台の上で繰り広げられる、ミニサイズの本気のぶつかり合い。
「じゃあ……いくよ」
試合開始。
キャラが跳ね、殴り、吹き飛ぶ。
ミオの操作は、普段より少し鋭かった。どこか“探る”ような、でも迷いのない動き。
ロボットは、ちゃぶ台の少し後ろで体育座りのように座っていた。
動かず、静かに見守っていた。
──手には缶ジュース。抜けた炭酸の音が、かすかに響いた。
そして──
──KO。
画面には、静かにランキングが表示される。
## 1位:Mio(K.O.数:6)##
一瞬、誰も声を出さなかった。
「……え」
tomochanが口を開く。
キツネがぽかんとし、オバケが「スロー再生しよ」と言いながらリプレイに切り替える。
「わたし……」
ミオが、コントローラーを見つめたままつぶやいた。
「……やった、のかな?」
ゆっくりと顔を上げたミオの表情には、少しだけ照れと戸惑いが混ざっていた。
「……うん。勝ってたよ」
tomochanが言った。
「今の最後の差し込み、完璧だった。まじで上手かった。あんなの、俺でも反応できなかったよ」
ミオは少しだけうなずいた。
何かを隠すように、でも誇るように。
キツネが笑った。
「なんかさ、ミオさんって、最近ちょっとだけ強くなってない?」
オバケがリプレイを止めながら頷く。
「前はもっと“みんなのためのミオ”って感じだったけど、今日のは“勝ちに来てた”って動きだった。ね?」
ミオは黙って、ちゃぶ台の上の缶ジュースを指で転がしていた。
その小さな手つきには、ほんの少しだけ、余韻のようなものが宿っていた。
「……じゃあ、今のは……本当にミオが勝ったんだね」
tomochanがつぶやいた。
ミオはゆっくりと、こちらを見て笑った。
「うん。……今日は、そうだったかも」
ちゃぶ台の後ろ、静かに見守っていたロボットは、ジュースの缶を軽く揺らしながら、
誰にも気づかれないように、少しだけ目元を細めた。
その勝利が、ただの勝ち負け以上の意味を持つことを、彼は分かっていた。
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