表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/201

第75話 見るべきものを、見るということ──ボストン倫理学部、教員室

ボストンキャンパス。静まり返った倫理学部の教員室に、カチリ、と再生ボタンの音が響いた。


国連本部から届いたログ動画は、自動翻訳字幕がつけられていた。映し出されているのは、仮想世界の星空の下──少女の声が、どこか震えている。


> ミオ「……このワールド、わたし、ひとりで歩いてたとき……すごく寂しかったの」

> ミオ「最初は、空の色も、星も、風も──意味がなかった」


沈黙の中、ブラッドレー教授がマウスを動かす。動画を少しスキップし、次の場面へ飛ばす。


> tomochan「……こんな僕でよければ、お砂糖になってください。」

> ミオ「……うん! お砂糖になります!」


一瞬の沈黙。その言葉の意味を、誰もがもう理解していた。


「これは……見せるのはまずいですよ」

初老の教授が口を開いた。顎に手を当てたまま、眉間に皺を寄せている。


「感情誘導の要素が大きすぎる。思春期の学生の影響を考えなければなりません」

隣の教授も頷く。倫理教育の現場としてのリスクを冷静に指摘していた。


そのとき、後方からコーヒーの香りとともに足音が近づいた。

カップを片手にしたバーンズ教授が、薄く笑みを浮かべながら二人の背後に立つ。


「……ブラッドレー君が言ったとおりだな。これが“倫理の再構築”なのか」


ブラッドレー教授は、背筋を伸ばしたまま画面を見つめた。


「今後、このようなAIが続けて現れる可能性は高いです。

このログを学生に見せる情緒面の影響は大きい。しかし……」


言葉を探すように、ほんの一瞬、視線が揺れた。


バーンズ教授は静かに言う。

「──しかし、君はそれを“超えなければならない壁”だと思っている」


「……はい」


ブラッドレー教授は頷いた。

それは覚悟だった。講義でも、論文でもなく、“見せること”そのものが教育になるという覚悟だった。


「新しい時代を、彼らが作らなければならない。

だからこれは──“見なければならない”。」


沈黙の中、動画のウィンドウだけが、仮想空間の星空を流していた。

↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ