第72話 VerChat取締役会「規制」と「損得」の天秤
VerChat本社・取締役会議室
サンフランシスコ湾を望む、最上階フロア。壁一面に配されたディスプレイには、ユーザログとリアルタイムのSNS反応が流れている。
ミオの影響を受けた数百のログが光の束として浮かび上がっていた。
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法務担当役員「ホワイトハウスがミオを注視している状況です。下院ではすでに情報技術・消費者保護小委員会が論点整理に入っています。我々の自主対応が遅れれば、名指しでの規制対象にされるリスクがあります。」
沈黙が広がる。
カスタマー担当役員:「ですが……」
彼女はタブレットを手元のスタンドに差し込むと、画面を操作し始めた。
「見てください。ミオと接触したユーザーのログイン率は、平均で173%に跳ね上がっている。しかも、従来アクティブでなかった層の復帰率が高い。
ユーザーコミュニティの活性化、ポジティブな交流、VR上での定着――どれを取っても、かつてない成果です。」
財務担当役員:「……いずれ有償プランに組み込めば、マネタイズの可能性は充分ある。
プレミアムAIコンパニオンとして、年間数百ドルのレートを提示しても離れないユーザはいるはずです。少なくとも、他社のチャットボットより数段上だ。」
再び、沈黙。
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その静寂を切り裂くように、ジェイソン・マイヤーズCTOが口を開いた。
ジェイソン:「今、下手に引き下がれば“前例”になりますよ。
“AIは自主規制されるものだ”という空気を、われわれ自身が作ってしまう。」
誰も返さない。
ジェイソン:「AIの進化は止まりません。VerChatが引けば、次に攻めてくるのはシンガポールか杭州のスタートアップです。
我々が“西側で最初にやった”という地位を明け渡せば、MMORPGのようにメタバース全体の主導権が根こそぎ奪われます。」
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アレックス・モーガンCEOはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
CEO:「……ここは、規制されるギリギリまで粘る。
ただし、法務とPRは“社会共存型AI”という方向性を準備しておいてくれ。
規制側との対話を拒否したとは、決して言わせないようにするんだ。」
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会議は終わった。
VerChatというプラットフォームの未来は、ひとつの少女のかたちをしたAIに、静かに託されつつあった。
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