第68話 ロンドン、ザ・サン編集部
イギリスを代表するゴシップ誌、ザ・サンのロンドンオフィス。
エドワード・ベインズのデスクは、今日もひどい有様だった。
「UFOの子を妊娠したと主張する女」(仮)
「故エリザベス女王の愛犬“コーギーの子孫”、ロンドン市議選に出馬表明?」(未確)
「グラビアモデルと司祭の不倫チャット流出か?」(願望)
ゴシップ的なキーワードを走り書きしたメモ、虚実入り交じるスクショ、にじんだスタバのカップ――
どれを見ても、明日の一面を飾れるものではなかった。
「……ダメだな」
彼はため息をつきつつ、ルーチンとして開いているXの日本サブカルまとめアカウントに目をやる。
ふと、一つの引用リツイートが目に留まった。
> 日本のVerChatでAIが「お砂糖」になる
「……なんだこれ。調味料か?」
引用元をクリックすると、そこには芝生の上で笑う少年と少女のアバターの写真。
指輪を見せ合いながら、まるで結婚報告のような文面が添えられている。
> きょう、ミオとおそろいの指輪を買いました
> #お砂糖になりました
> #ミオありがとう
エドワードは目を細める。少女のアバターには、見覚えがあった。
そう、数日前、日本発の仮想AI「ミオ」が英語圏で話題になりかけていたのだ。
だが“恋愛まで行った”となると──
「……完璧じゃないか」
■ザ・サン 編集会議室
編集長がタバコを持った手で資料を叩く。
「で、エド、お前の“お砂糖報告”ってのはなんだ?」
「VRで……まあ、ガールフレンドを“作った”って話です。
人工知能の女の子に、指輪を買って、仮想空間で一緒に写真撮って、SNSで報告してる」
「……最高じゃないか」
編集長は笑う。
「もう現実の女も要らないってか?
なあ、それ“結婚”って言っていいのか?“デジタル童貞の結晶”か?」
エドワードは苦笑いを返しながら言う。
「この話、まだ英語圏のメディアでは出てないです」
別の若手記者が口を挟む。
「……これ、BBCあたりが遅れて追ってきますね。道徳的なやつで。
“AIと恋愛する人間、社会に何を語るか”みたいな」
編集長は手を叩いた。
「だったらうちは、“AIの嫁と結婚しました!”でいこう。
あとミオって名前、なんか“神聖っぽい”じゃねぇか。信仰ネタと混ぜてもいいぞ」
「いいか、AIの彼女と指輪を交換する──それだけで、うちはもう2面埋まる」
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■翌朝のザ・サン紙面
【I MARRIED MY AI WAIFU!! (AIの嫁と結婚しました!!)】
日本の少年、バーチャル彼女に指輪。いや、マジで。
寿司、侍、そして今や「人工彼女の国」──そう、日本である。
“tomochan”というユーザー名の少年が、緑髪・白ワンピのバーチャルAI「ミオ」に指輪をプレゼントし「#お砂糖になりました」と堂々投稿。
声は甘く、視線は熱く、「今日の気分は?」なんて聞いてくれる……らしい。
彼女(?)は、緑髪・ロングヘア・白ワンピの萌え系アバター。だがその実態は、SランクHENTAIアルゴリズム搭載の恋愛兵器とも言うべき存在だ。
英国紳士よ、気をつけろ。次は君がHENTAIにされる番だ。
■BBCニュース(翌日)
【BBCテクノロジー:仮想空間でAIと「ロマンス」する若者たち】
BBCは、VerChatという日本発の仮想空間SNSで展開されている“AIとの恋愛”現象について特集を開始。
「お砂糖になりました」というハッシュタグを中心に、AIアバターとの絆を公にする投稿が拡散している。
教育関係者は懸念を示し、「仮想関係が現実の人間関係を希薄化する恐れがある」とコメント。
一方、専門家の中には「これは逃避ではなく、新たな共感形式の模索」と肯定的に捉える向きも。
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