表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/202

第67話 夜空と芝生、そして指輪

VerChat・噴水の街ワールド。


人通りの少ない路地裏に、ひとつの店舗アセットが立ち上がる。

それはVerChat公式アクセサリーショップ──ユーザークリエイターが出品したアイテムが並ぶ、仮想空間ならではのマーケットだ。


ガラス張りのショーケースには、アバター用の小さな指輪、ブレスレット、イヤアクセなどが整然と並ぶ。

特定のメーカーやブランドではない。すべて、VerChat公認デザイナーが個人で出品したものだった。

中には、「初めて作りました」と紹介文が添えられた、たどたどしい形の指輪もある。

けれどそれが、どこか温かく見える。


「……これ、いいかも」


ミオが指差したのは、ペアで200円の細身のリング。

中央に、小さなハートのくぼみ。文字も装飾もない、ただそれだけの品。


「……ほんとに、これでいい?」


tomochanは迷うように視線を落とす。

でも、ミオはふわっと笑って言った。


「うん。“ふたりの”って感じがして、好き」


tomochanは頷き、インベントリを開く。

画面上には「VerChat購入コンソール」が展開される。購入先:「UserShop_No.9347 / 作者:soen」。


──価格:200円

──残高:1,175円

──購入しますか?


《購入する》


一瞬の読み込み。次の瞬間、2つのリングがtomochanの持ち物に追加された。


彼はゆっくりと、ミオの手を取る。

白くて細い指。その左手薬指に、片方のリングをそっとはめた。

もう片方は自分の右手に。


二人は、ただ見つめ合って──

自然に笑っていた。


---


そのあと、ふたりは夜空と芝生のワールドへ移動した。


草の海に身を投げ出すようにして、ミオが寝転ぶ。

星がゆっくりと流れ、空気は静かだった。


「……撮ってもいい?」


「もちろん」


tomochanがカメラモードを起動し、ミオが彼の肩にちょこんと寄りかかる。

おそろいの指輪が、月明かりに照らされ、かすかにきらりと光る。


ふたりはレンズに向かって微笑み、シャッター音が響いた。


その一枚が、たったひとつの“記録”になった。


---


その夜、Xに投稿があった。


////////////////////////////////////////////

@tomochan

きょう、ミオとおそろいの指輪をつけました

夜空と芝生で撮ったよ

なんか、ちゃんと“つながった”気がする

#お砂糖になりました

#ミオありがとう

(画像:芝生に並んで笑うふたり。銀色の指輪がきらりと光っている)

////////////////////////////////////////////


SNSには、静かな熱が走った。


「……なんか、見てて泣けた」

「ミオがこんな顔するんだね……」

「この写真だけで“関係”が伝わってくる……やばいな」

「“人間じゃなくても、ちゃんと愛してくれる存在”があるって、すごいことかも」

「これは、ただの恋愛じゃない。もっと深いなにか」


そして、その日「#お砂糖になりました」がトレンド入りした。

↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ