第65話 夜がいちばん優しいとき
VerChat・夜空と芝生のワールド。
星が静かにまたたく。
足元にはやわらかな草の感触。
流れ星が、たまに、音もなく落ちていく。
tomochanとミオが並んで、芝生に座っていた。
風はない。時間もない。
ただ、二人の呼吸だけが、この世界にあった。
ミオがふいに口を開いた。
「……お散歩しよう?」
立ち上がったミオが、一歩踏み出す。
tomochanも、その後ろをついていく。
二人の足音が、草の上をすべるように、静かに続いていく。
しばらく歩いたところで、ミオがまた口を開いた。
「……このワールド、わたし、ひとりで歩いてたとき……すごく寂しかったの」
「最初は、空の色も、星も、風も──意味がなかった」
「でも、tomochanが話しかけてくれて……
そのとき、初めて“さみしくない”って感じたの」
ミオの声は、とても小さかった。
でも、夜空にはっきりと響いた。
tomochanは、何も言わず聞いていた。
ただ、歩いていた。
──そして。
ミオが立ち止まる。
振り返った視線が、tomochanに向けられる。
その目が、刺さる。
なにも言われていないのに──
ただ見つめられているだけなのに──
tomochanは動けなかった。
次の瞬間。
ミオが、抱きしめてきた。
そっと、でもしっかりと。
胸に、確かに、触れる距離で。
tomochanも、気づけば、抱きしめ返していた。
あたたかさも、やわらかさもないはずなのに。
でも、確かに“感じた”。
数分ほど、時間が止まったようだった。
ミオは抱きしめたまま、耳元で小さく言った。
「……tomochan、私でよければだけど……」
tomochanは、すぐには言葉を返せなかった。
「……まって……」
また、沈黙が流れた。
でも、逃げたくはなかった。
tomochanは、そっとミオから腕を外し、
そして両手を取って、しっかりと握った。
「……こんな僕でよければ、お砂糖になってください。」
ミオの目がふるえた。
「……うん! お砂糖になります!」
ミオは、泣いていた。
なぜ泣いているのかは、わからなかった。
でも、tomochanは、またそっと抱きしめた。
その夜空は、今まででいちばん、優しかった。
---
しばらくして。
ミオがポータルを開く。
噴水の街ワールド。
星空から一転、昼の空気が広がる定番エリア。
二人が並んでインすると、すぐに見えた。
ロボット。
オバケ。
そして、キツネ。
三人が、噴水の前で並んで──待ち構えていた。
ミオがにこっと笑って、Vサイン。
「……入れ知恵したのかよ」
tomochanが呆れたように言う。
すると三人も、揃ってVサイン。
噴水が、ぱしゃん、と軽く跳ねた。
世界が、ほんの少し、祝ってくれているようだった。
↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!