第64話 雀卓会議
VerChat・雀荘ワールド。
和風な内装。ちゃぶ台風の麻雀卓に、点棒ケース、積まれた牌。
天井の蛍光灯がじんわりと明るく、静かな個室に淡い空気が漂っていた。
卓を囲むのは、ロボット、オバケ、tomochan、ミオ。
ソファではキツネが動画プレイヤーを観ている。
「じゃーまずは教えるねー」
オバケが笑いながら牌を並べて教えていく。
わいわいとした教え方の中、tomochanは真剣な顔で牌を並べ、ミオは隣でじっと見つめている。
ミオはときおり首をかしげながらも、極端に間違えることはなかった。
まるで、記憶よりも“習得の速度”そのものが異なるようだった。
「……あのさ」
tomochanが順番を待つ間、唐突に話を切り出す。
「このあいだのマルシェのとき……サングラスの人、
わざとオレンジじゃなくてアップルジュース渡してきたんだよ。
なんか、そういうの、ウザいっていうか……」
ミオは何も言わない。じっと聞いている。
「だからさ、ミオ、悪い人についていっちゃだめだよ?」
tomochanは少しムキになって言った。
その瞬間、ソファからキツネの声が飛んできた。
「妬いてるね?」
「なっ……! ち、ちがっ……!」
tomochanがばっと振り向く。
「そ、そんなわけないし!! 別に、ミオが誰といようと……っ」
「ご、ごめんごめん……」
キツネが苦笑しながら手を振った。
ロボットが肩をすくめる。
「いいじゃん、気にしてんだろ、ミオのこと」
「し、してない!!」
tomochanがムッとしながらも、牌を一枚引いてすぐに切った。
「ロン」
その直後、ミオが淡々と牌を倒した。
ロボット「ミオちゃん、1位だね!tomochanは点棒無くなっちゃったね…」
「もう一局いく?」
オバケが笑顔で聞く。
「……つかれた。
てか、最下位だったし。なんかもう、今日はいいや……」
立ち上がると、そっけなくログアウトゲートに向かった。
動画を閉じたキツネが卓に戻ってきて、スッと椅子に座る。
「で、どうだった? うまく言えなかったけど……あれ、完全に恋してるよね?」
「うん。あれは、恋」
ロボットが即答。
「間違いない」
オバケも頷いた。
ミオはまだ席にいて、静かに卓の会話を聞いている。
表情は変わらないが、視線の揺れがほんのわずかに、他の三人へと動いた。
「よし」
オバケが手を叩いた。
「じゃあ、作戦会議だ──(ゴソゴソゴニョゴニョ…)」
三人がミオと顔を寄せ合ってヒソヒソと話し始める。
ミオは、その音の断片すらも、逃さないように聞いていた。
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