表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/202

第61話 オレンジジュースじゃなきゃだめなのに

VerChat・マルシェワールド。

休日の昼前。

石畳の道沿いに、屋台がずらりと並んでいる。

パン屋、雑貨屋、古着屋──そして、青と白のコーヒートラック。


その前に、数人のアバターが集まっていた。

tomochan、ミオ。

それに、魔法使い帽の女性アバターと、サングラスをかけた洒落た男の子アバター。


空気はふんわりとしていて、笑い声も軽やかだった。


「ミオちゃん、こんにちわ!」

魔法使いのアバターが元気よく手を振る。


ミオは、ほんの一瞬だけ首を傾け、

そして、目を合わせながら小さく言った。


「……こんにちわ」


「うおっ、返事返ってきたー!すごい、ほんとに喋るようになってるじゃん!」

魔法使いが嬉しそうに笑う。


サングラスが、トラックのメニューを見上げながら言う。


「ミオちゃん、なにか飲みたいものある?」


ミオは、視線を動かし、ほんの一拍おいて答えた。


「……オレンジジュースが、ほしい」


「OK、それなら──はい、りんご!」


サングラスが笑いながら、アップルジュースを差し出す。


ミオは受け取って、ごくごくと飲んだ。

喉を鳴らし終えると、にこっと笑って言った。


「……おいしいけど、ちがうよ?」


その言い方があまりにも自然で、可愛らしくて、

みんなが思わず笑った。


「ちがうよって!ほんとに言ってる!」

「かわいいな〜これ、ミオ人気出るやつだわ」


ふんわりとした空気が、トラックの前に漂っていた。


──でも。


その輪の外で、tomochanがじっとミオを見ていた。

わずかに、唇を噛むようにして──目を伏せる。


そして、唐突に口を開く。


「……ミオ、行こう」


そう言うと、迷わず手を伸ばして、ミオの手を引いた。


ミオは抵抗もせず、ただ素直にtomochanについていく。

ふたりの背中が、マルシェの雑踏の中に消えていく。


その様子を見て、魔法使いがくすっと笑った。


「妬いてた?」


サングラスが肩をすくめながら、片手をポケットに突っ込んだ。


「甘いねえ……

でも、あのくらい、“誰かを独占したくなる”って気持ち、分かるよ」


「分かるねえ。

だって、ミオちゃん、もう“居る”って感じになってるもん」


マルシェの風に、コーヒーの香りと笑い声が混じって流れていった。

↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ