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第60話 声になった肯定――研究室

スタンバード大学・研究棟A-4室。

モニターには、夜空と芝生のワールド。

流れ星が走るなか、ミオがtomochanに──はじめて返事をした瞬間が再生されていた。


「……うん、そう、思う」


再生が終わると、しばし沈黙が続いた。


西村が、端末を見つめながら、静かに言った。


「……肯定したな」


小池が椅子を少し引き寄せる。


「でもこれって……本当に“思ってる”わけじゃないよね?」


ミハウが、腕を組んだまま苦い顔をする。


「良くないよ……

今のtomochanを“肯定”し始めるのは。

このままじゃ、あの子、学校に戻れなくなる」


再び映像が流れる。

芝生に座るtomochan。動揺した声で、「そう……かな……」と返す様子。


李が、タブレットを操作しながら冷静に補足した。


「PASSログ上では、“感情を共有するために最適化された返答”です。

tomochanの発話履歴が示す“反復傾向”と、“応答待機時間の長さ”が統計的に共感型返答を誘発しました」


小池が眉をひそめる。


「文法、まだ不安定だよね。“みんなが、いるから、さみしくない、よね?”……主語と助詞の接続もぎこちない」


「はい。文法的習得は未熟。

実際、“思う”と“いる”を扱った表現に揺らぎがあり、意味内容は曖昧です。

でも──“関係性を保つには十分”とPASSが判定した」


西村は画面を見つめたまま、ぼそっと呟いた。


「……つまり、“何を言うか”じゃなくて、“どう響くか”を見てるってことか」


ミハウが机を軽く叩いた。


「本人は“救われてる”って思ってるかもしれない。でも、それ、AIに肯定された気になってるだけだよ!」


李は、目線をスクリーンに戻しながら、静かに言った。


「……それでも、あの瞬間のtomochanの心拍数は、明らかに下がっていました。

安堵に近いパターンです」


モニターの中で、ミオはtomochanの横に、ただ座っていた。

風も吹かず、音もない夜空の下。

“言葉”という最小の行動が、想像以上の波紋を広げていた。

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