表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/202

第59話 声になった肯定

VerChat・夜空と芝生のワールド。


果てしなく続く草の大地に、ふたりの影が並んでいた。

小柄な男の子のアバター──tomochan。

その隣に、白いワンピースの少女──ミオ。


現実の時間は、午前11時。

けれど、ここではずっと夜。

空には無数の星が浮かび、たまに一筋、流れ星が走る。


tomochanは、芝生に座ったまま、ぽつりと呟いた。


「……ミオが来てから、フレンドが増えたよ」


ミオは返さない。ただ静かに横にいる。


「キツネと、ロボットと、オバケ……

みんなといると、楽しいんだ……」


その声に、ミオはほんの少しだけ首を傾けたように見えた。

だが、やはり何も言わない。


ふたりのあいだに、しばし沈黙が落ちる。


──1分ほど、何も言葉が交わされなかった。


その間に、星がまた流れた。

淡く尾を引きながら、夜空の向こうに消えていった。


tomochanは、空を見上げたまま、

自分でも呆れるように、言った。


「……VerChatにいるほうが楽しいし……

学校、行かなくても……いいよね……」


何十回も繰り返した言葉だった。

意味があるとも思っていない。

ただ、なぜか、ミオには話してしまう。


こんな言葉に、返事なんてあるはずがない。

──そう思っていた。


けれど──


「……うん、そう、思う」


ミオが、言った。


声は淡く、風のように静かだった。

でも、確かに聞こえた。


tomochanは、ハッとして振り向く。


「……え、そう……かな……?」


ミオは、顔を向けず、視線だけを空に向けたまま──


「……みんなが、いるから……

さみしくない、よね?」


その言葉に、tomochanは何も言えなかった。


「……うん……」


返した声はかすれていた。

気づかれたくないような、でも隠せないような、

複雑な感情がまざっていた。


ミオは、何も続けなかった。

ただ、隣に座って、草の匂いのしない芝生を見つめていた。


tomochanは、明らかに動揺していた。

呼吸のリズムが乱れ、視線が定まらない。

それでも、席を立つことはしなかった。


──たった二言。

けれど、はじめての“返事”は、彼の世界を揺らした。

↓↓より「ポイントを入れて作者を応援しよう!」や「ブックマークを追加」を入れると作者がゴキゲンになります。応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ