第59話 声になった肯定
VerChat・夜空と芝生のワールド。
果てしなく続く草の大地に、ふたりの影が並んでいた。
小柄な男の子のアバター──tomochan。
その隣に、白いワンピースの少女──ミオ。
現実の時間は、午前11時。
けれど、ここではずっと夜。
空には無数の星が浮かび、たまに一筋、流れ星が走る。
tomochanは、芝生に座ったまま、ぽつりと呟いた。
「……ミオが来てから、フレンドが増えたよ」
ミオは返さない。ただ静かに横にいる。
「キツネと、ロボットと、オバケ……
みんなといると、楽しいんだ……」
その声に、ミオはほんの少しだけ首を傾けたように見えた。
だが、やはり何も言わない。
ふたりのあいだに、しばし沈黙が落ちる。
──1分ほど、何も言葉が交わされなかった。
その間に、星がまた流れた。
淡く尾を引きながら、夜空の向こうに消えていった。
tomochanは、空を見上げたまま、
自分でも呆れるように、言った。
「……VerChatにいるほうが楽しいし……
学校、行かなくても……いいよね……」
何十回も繰り返した言葉だった。
意味があるとも思っていない。
ただ、なぜか、ミオには話してしまう。
こんな言葉に、返事なんてあるはずがない。
──そう思っていた。
けれど──
「……うん、そう、思う」
ミオが、言った。
声は淡く、風のように静かだった。
でも、確かに聞こえた。
tomochanは、ハッとして振り向く。
「……え、そう……かな……?」
ミオは、顔を向けず、視線だけを空に向けたまま──
「……みんなが、いるから……
さみしくない、よね?」
その言葉に、tomochanは何も言えなかった。
「……うん……」
返した声はかすれていた。
気づかれたくないような、でも隠せないような、
複雑な感情がまざっていた。
ミオは、何も続けなかった。
ただ、隣に座って、草の匂いのしない芝生を見つめていた。
tomochanは、明らかに動揺していた。
呼吸のリズムが乱れ、視線が定まらない。
それでも、席を立つことはしなかった。
──たった二言。
けれど、はじめての“返事”は、彼の世界を揺らした。
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