第5話 李 偉(リ ウェイ)
西村は、にぎやかすぎる空間を見渡して、目を押さえた。
「……もう目眩が……」
そのとき、静かな声が響いた。
「ここが、ミオプロジェクトですか?」
振り返ると、研究室の入り口に立っていたのは、細身で姿勢の良い青年だった。
黒髪を短く整え、着ている服も端正だ。
言葉には、どこか中国系の訛が残っている。
「どうも、ミオファンクラブ会長の西村です」
西村が妙にキリッとした表情で応じる。
天野が思わず吹きそうになったが、黙って見守る。
「こちらこそ、李 偉です。AI開発をしに来ました」
「経験は?」
「いえ、まだないです」
「学部は?」
「理数学部の数学科です」
西村は天野のPCで勝手に何かを調べながら、ちらっと李の顔を見る。
にやりと笑った。
「……ふーん、どれどれ……数学オリンピック、出ただろ」
「はい、一応、一番になりました」
一瞬、空気が変わった。
「なるほど。よし、採用!」
西村が即断した。
「ちょ、まだ何も言ってないんだけど……」
天野が口を挟むと、李は少しだけ微笑んで言った。
「数学だけじゃ、何も作れないし、何も変えられないから……AIをやってみたいんです」
その言葉に、一瞬だけ場が静まった。
西村は指を鳴らしながら天野に向き直る。
「なーに、こいつの価値は俺が保証するよ。
実装はオレが教える。こいつが方程式、オレが爆薬、そんでお前が火種。……な?」
天野は苦笑した。
「なんか不安しかないけど……まあ、いいチームになりそうだね」
天野は苦笑しながら、研究変更申請書に追記した。
***以下研究員を追加申請する
修士1年 西村 海斗
学士3年 李 偉
学士4年 小池 すみれ
修士1年 ミハウ・ノヴァク
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