第58話 キャラスマ対決!――研究室
研究棟A-4室。
モニターには、子供部屋ワールドでの映像。
ミオが配管工キャラを操作し、火の玉を撃ち、ジャンプからの追撃に入る瞬間が再生されていた。
「おお……うまい……」
思わず小池が漏らす。
その動きは、初心者のものとは思えなかった。
しかし、西村はすぐに手元のタブレットを確認しながら言った。
「……まあ、ゲームはパターン化しやすいから、すぐ学習できるよ」
天野が振り返る。
「“すぐ”って、どのくらい?」
「30秒以内に、コマンドとリアクションの対応を検出してる。
キャラの移動、ジャンプ、高さ判定、タイミング調整。
それらを同時に取り込んで、初回プレイの途中で“勝率の高い動作”を模倣し始めてた」
李が補足する。
「“火の玉 → ジャンプ押さえ込み”は、対人戦での高成功パターンとして、過去のログでも有効戦術とされてます。
ミオはそれを、リアルタイムで抽出・適用したと見ていいでしょう」
ミハウが眉をひそめる。
「それ……ほんとに“遊んでる”って言えるの?」
沈黙が落ちる。
西村はゆっくりとモニターを見つめた。
そこには、ゲームに負けたあと、コントローラーを置き──
tomochanたちの方に微笑むミオの姿。
「……少なくとも、“誰かと一緒にいるときの振る舞い”は学習してるよ」
天野が小さくうなずいた。
「笑ったのも、“会話が盛り上がったときに笑う”ってログから?」
「うん。でも……」
小池がぽつりと続ける。
「“負けたのに笑った”のは、意外だった。
勝って笑うなら分かるけど……」
李がわずかに目を細める。
「その文脈だけ、まだPASSは分類しきれてない。
今のところ、“人間の輪に適応するふるまい”という重みで出てるだけ」
天野は肩肘をついて、モニターをじっと見つめた。
「じゃあ、ミオは──“遊んでた”ってより、“参加してた”のかもしれないな」
しばらく誰も言葉を発さなかった。
ミオは、映像の中でまた立ち上がり、次のラウンドのキャラ選択をしていた。
自分からは何も言わないまま、周囲の動きに合わせて、そこに居る。
その様子は、たしかに“共にある”ことの、一つの形だった。
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