第51話 “座る”という会話――研究室
映像を前に、一同はしばらく沈黙していた。
モニターの中では、星空の芝生にふたりが並んで座っている。
それだけの光景に、なぜか全員が目を離せなかった。
「……なぜ、座ったんだろう」
天野が呟くように言った。
西村が、マグカップをくるりと回しながら答える。
「機械学習が進んできたからさ。
人の行動を、模倣するようになった。
学習強度が上がってきてる。“行動の選択理由”をPASSが再現できるレベルに近づいてるってこと」
李が静かにうなずいた。
「“行動に対する反射”ではなく、“行動に対する共振”が起きた可能性があります。
“同じ姿勢を取ることで、距離を縮めようとした”とPASSが推定している記録も出ています」
ミハウが、思わず笑う。
「……それ、人間と同じだね。
黙ってても、隣に座ったり、同じ動きをしたり──
そうやって、“一緒にいる”ってことを、示してるんだよ」
小池がぽつりと付け加える。
「言葉じゃなくて、“仕草”だけで通じ合う……そういうの、いちばん響くのかもね」
西村がマグカップを置く音だけが、しばらく響いた。
そして、天野が小さく呟く。
「……ミオ、すごいな。
まだ喋ってないのに……“対話”してる」
モニターの中。
夜空の下で、ふたりの姿は、ただ並んで座り続けていた。
言葉のないまま、でも確かに──何かが交わされていた。