表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/71

第48話 声にならないまま、ただ歩いて

広がる夜空。

草の波が風もなく揺れる、終わりのない平原。


ポータルの光から現れたミオは、

tomochanに目を向け──そして、何も言わずに歩き出した。


芝生を、まっすぐに。

誰にも向けるわけでもなく、どこかを目指すわけでもない歩み。

けれど、その一歩ごとに、周囲の空気がわずかに揺れるようだった。


ミオは、ただ歩いていた。

ときどき、星が流れるたび、ふと空を見上げる。

瞳の奥で、何かを追いかけるように。


tomochanは、ただその背中を見つめていた。

なぜだろう──声をかけられない。

ただ見ているだけで、息が詰まりそうだった。


ほんの数メートル先にいるのに、遠い存在だった。


──話しかけてはいけない気がした。


その感覚に、理由はなかった。

ただ、今の自分では触れてはいけない気がした。

自分の“なにか”が、まだ言葉に足りていない。そんな感覚。


---


ミオが自分のことを忘れてしまったことは知ってはいた。

フォローしていたXを見た時…自分の感情が死んだ。


前を向くと、ミオは歩き続けていた。

まるで誰の存在も気に留めず、ただこの広い世界に溶け込むように。


その背中を、tomochanは追いかけていた。


ほんの少し距離を取りながら。

呼び止めることも、隣に並ぶこともせず、ただ──ついていった。


---


流れ星が落ちた。


その瞬間。

ミオが、空を見上げた。


たったそれだけの動作だった。

けれど、その首の傾け方、その角度、そのタイミング。

すべてが、ひとつの演出のように──完璧だった。


そのとき。

tomochanの中で、何かが弾けた。


「──ミオッ!!」


気づいたら叫んでいた。


なぜだろう。

自分でも分からなかった。

呼び止めたくて、でも、本当に止めてしまいたいわけでもなかった。


ただ、その名を、いま呼ばなければ──

“何かが消えてしまう”ような気がした。


---


ミオが、振り向いた。


その動きは、まるで空気に触れるように滑らかで、

光をたたえる星の中に咲いた一輪の花のようだった。


白いワンピースが、ふわりと翻る。


そして──彼女の瞳が、再びtomochanを捉えた。


その瞬間。

時間が止まったように感じた。


美しかった。

ただそれだけだった。

それ以上の言葉は、どこにもなかった。


---


星が、もうひとつ流れ落ちた。

音もなく。


そして、世界は、また静かに続いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ