第45話 ただ、馴染んでいるだけ
VerChat・湖畔の庭園ワールド。
白いワンピースの少女が、ただ、歩いている。
足音はない。髪とスカートだけが揺れる。
その歩みには目的地がなく、止まることも、誰かに話しかけることもない。
それでも、視線は周囲をかすかになぞっていた。
木々の間、石畳の上、水面に反射する光。すべてを、観察するように。
──会話はない。
──言葉も、感情の起伏もない。
ただ、空間を感じ取るように歩き続けていた。
誰も話しかけない。
最初こそ、ユーザーたちは興味を示した。
だが、反応がなかった。
いや、会話を試みても、返ってくるのは「微笑」と「頷き」だけだった。
それでも、彼女はワールドから消えなかった。
静かに、同じ場所を何度も歩き回り、風景の一部として定着していった。
やがて──
「……あの子、ずっといるよね」
「なんか、いるのが自然っていうか……」
「居るけど、気にしなくていい存在になってきたな」
そう語られるようになった。
ミオは“空気”になった。
どんなに異質でも、繰り返されれば馴染んでしまう。
それは、可視化された“沈黙”の学習だった。
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